05



「治安整備?」


 拠点にしている街の治安は、教団が守っているから他と比べてとても良い。どのくらい違うかと言えば世紀末伝説とアメリカ都市部くらいの差がある――ってタダオが言っていた。この世界にアメリカはないのにアルビレオさんも他の人たちも理解できたみたいでウンウンと頷いてて、この人たちも前世持ちの転生者もしくはトリッパーだということがはっきりした。前々から疑ってはいたんだけどね、確たる証拠がなかったって言うか。


「はい、この街の治安と他の地域の状態はあまりに違いすぎるのです。ここでは一年の間に他殺される人数が片手で足りるほどですが、貴教団の手が及んでいない街では一年の間に二百人や三百人が死んでいくのです。世界的に治安を良くする組織――その立ち上げに協力してくれませんか」


 私に会いに来たのはとある国の使者だった。応接室にしている一階のとある部屋で私と向こうさん、タダオ、向こうさんのボディーガードの四人で話し合いの席を設けて、まだ熱いお茶を手に話し合っていた。

 向こうさんの国は昔まだ治安が良かった頃に民主主義を掲げたものの世界規模の治安の悪化のせいで政府はガタガタ、民衆は路頭に迷いさらに治安を悪くするという悪循環に陥ったとか。もう自分たちの手ではどうすることもできず私に泣きつこうという話になったらしい。ただの宗教団体、それも怪しい新興宗教によく泣きつく気になれたものだなぁと思わないでもない。


「私個人としては協力するのもやぶさかではありませんが、どうして我々なのでしょうか? 他にも素晴らしい思想を持った組織はあるはずですが」


 私がそう訊ねると彼は視線を気まずげに逸らした。


「我々も他の組織に打診しなかったわけではありません。ですがどこからも、それぞれが根を下ろす地域の治安維持にしか興味がなかったり他の地域に派遣できるだけの人数がいなかったりと断られたのです」

「なるほど」


 私たちのしている行為は歓迎すべきものだとしても、教祖(私)が自分で自分を『聖女』と名乗るような宗教に頼みたくなんてなかったのだろう。信頼できそうな組織は役に立たず、不審だが人数は揃っているここに流れ着く他なかった、と。


「当方としてももうなりふり構っていられないのです。もし力を貸してくださるならばこちらも最大限のバックアップをいたします」


 血判状も書こうと言わんばかりの彼に、なんていうか生ぬるい気分になった。この人、今自分が何を言っているか理解できていないに違いない。断られ続けたストレスか、それともカラフルな鶏冠頭の奴らが闊歩する自国の未来への危惧がそうさせるのか、かなりこっちに対して失礼なことも気づかずボロボロこぼしている。

 『なりふり構わない状態にでもならないとこの教団へ話を持ってこない』――つまり敬遠してしまう怪しい団体だと言いたいのか。まあ、対価を求めずただ治して回るだけの非営利団体なんてこのご時世じゃ異物というか奇異なものでしかないだろう。分かってはいるけど、人からそう言われるとちょっとむかつく。


「切羽詰まっとんのかいなぁ……」

「だろうね」


 頭を掻き毟りながら愚痴と懇願を念仏のように唱える彼の姿はなんだか哀れで、とりあえず寝ろと言いたくなる。


「どうする、タダオ?」

「とりあえずみんなの意見も聞かなな。ロードちゃんの決めたことやったらみんな聞くやろけど、何も言わんと決めてまうんはなぁ」


 一応私がリーダーであり創始者である教団だけど、今では私が把握しきれていない末端信者も合わせて一万人を越える大集団だ。私一人の意志を押し通してみんなに迷惑がかかってしまった時に責任がとれるほど私は万能じゃない。兄もみんなも私に甘いから二つ返事でOKしてくれるだろうことは火よりも明らかだけどだからって言わないなんてことができるわけがない。

 突如現れた聖女と名乗る不審な幼女が率いる集団に忌避感を抱いてしまうのは仕方ないし、だから頼るのを後回しにしたというのも気持ちがよく分かる。だけどこの教団――いや、私ほどこういうことで頼りになる人間との交流がある者はいないのではないだろうか? 病気や怪我を治したマフィアのボスとかボスの親族とかが入信していたりもするから裏社会の繋がりがあり、助けを呼ぶ声が合ればそれを受信できる能力者(初めは電波系かと思った)が受け取ってすぐに助けに行くから全国に地域密着型のコネがある。

 とりあえず彼と彼のボディーガードには一階の客室に泊まってもらうことにして、その日の晩にすぐ集まれる幹部を呼んで賛否を問うた。


「ふむ……良いのではないか? 我々も本来は自警団としてできた組織であるし、教団が警察組織を立ち上げるのならば全面的にサポートしよう」


 灰男と同じ少年誌で見かけた覚えがある見た目の青年が挙手したのち発言した。金髪は毛先が軽いのか跳ねていて、中指になんだか見覚えがある気がするリングを填めている。


「ボンゴレの言うとおり、私たち幻想郷も賛成よ。いい加減外国の治安が良くなってくれないとジャポンとしても港を開けないのよね」


 スキマを開いて各地へ飛べるユカリさんはジャポン出身の美女だ――彼女もどこかで見た覚えがあるけど信じたくないから信じない。


「私はサイトがいてくれるならどっちでも……」

「ル、ルイズぅ!」


 とまあ、どこがで見た気がする顔ばかりで版権ナニソレ美味しいの? 状態でカオスな会議となったけど、八割が賛成、残りの二割は興味なしという結果で終わった。ツルペタで童顔なルイズちゃんにベタ惚れのサイト君をロリコンの会に誘っているアルビレオさんに頭が痛くなりながら会議場を引き上げた。なんだか疲れたのは気のせいじゃないと思う。



++++
タダオ:GS美神、アルビレオ・イマ:ネギま!、ボンゴレ:リボーン!、サイト:ゼロの使い魔、ユカリ(紫):東方


5/10
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