世間一般の理想的な兄弟像というものは、弟妹を正しく導き頼りがいのある兄と、兄を敬い立てる弟妹といったところだろうか。だが――どうしてだろう? オレの弟妹は間違っちゃいないが正解でもない気がする。


「助けて兄さん☆」


 ほぼ毎日携帯を介して聞いている声が、幾度となく口にされてきた呪文を唱える。またか……。今度は一体何をどうしたんだか。


「どうしたんだ、ヒソカ?」

「聞きたいことがあるんだ☆ 兄さんは『寿司』が何か知ってるよね?」

「『寿司』?――ああ、ジャポンの民族料理の一つで、魚の切り身を親指大の四角く握った寿司飯に乗せた料理のことだ」


 つい数週間前、「ハンター試験受けてくるよ☆」と電話してきたヒソカ。オレは心配になった……ヒソカの身の安全がじゃなくて、周りの方々の命が。だからオレはオレの念能力【粘土人形(クラフトクレイ)】で姿形の全く異なる人形を作り出し、ヒソカにバレないように同行している。詐欺師の塒あたりで大量殺戮したみたいだが、あれはハンター試験を受けたあいつらが悪い。弱いならもっと修行してから来い。

 そして今は二次試験の真っ最中だ。ブハラとかいう巨人族の合格を得たから、次はメンチって女に寿司を出せば良いんだが……。流石のオレでも手巻き寿司はしたことがあっても握り寿司は一度もない。たとえジャポン食を知っている者が他にいたしても、作れるかは別問題だ。――難しい課題だな、そう考えながら魚釣りしていた時だ、ヒソカから電話があったのは。


「へえ、なるほど☆」

「ヒソカ。寿司は寿司でも握り寿司は、熟練するまで十年かかると言われるほどの料理だ。ついでに言えば寿司ネタ――寿司に使う魚は海水魚、今どこにいるかは知らんが川魚は使うなよ、腹を壊すからな」


 そう言うオレは川で魚釣りしている訳だが。炙りサーモンとかがあるんだ、魚が生じゃなければいけないという決まりはない。はずだ。


「ふぅん……どうしたら良いかな? 寿司を作らなくちゃいけないのに近くには川しかないんだけど」

「寿司には変わりダネというのがあってだな、たとえば焼肉やハンバーグを乗せるものもある。ただこれは冒険になる。その寿司を出せと言った奴が変わりダネを邪道だと考える者の場合、目の敵にされるかもな」


 川魚の炙りも嫌がるかもしれん。まあその時はその時だ。


「助かったよ☆ 有難う兄さん☆」

「なに、兄さんに任せろ」


 ――オレがこんなことを言うから兄離れ出来ないのかもしれない。ヒソカとの通話を切って魚を釣っていれば、再び鳴る携帯。画面には「愛妹」の文字。ついでに言えばヒソカは「愛弟」と登録している。あんなナリだが可愛い弟であることに違いはない。弟も妹もオレが育てたようなものだし、目に入れても痛くないくらい可愛い。そのせいでちょっと甘やかし過ぎている気がせんでもないが。


「オレだ。どうした、クラーレ?」

「ヒソカが兄さんに電話をかけた気がしたので」


 どんな電波っ子だ。だがクラーレはこんな兄貴を慕い敬ってくれる出来た妹。可愛くて仕方ない。


「ああ、ついさっきまで話していた。何かあったのか?」

「兄さんの声が聴きたくて……迷惑、だった?」


 我が妹ながらなんていじらしく可愛い子になって! 嫁に出す時は号泣必至だな……。クラーレを嫁にしたけりゃオレを倒していけ、とか言うかもしれん。

「いいや、全く迷惑なんかじゃないぞ。兄さんもクラーレの声が聴けて嬉しいよ」


 とまあ妹と仲良くしゃべってたら、いつの間にか試験が終わっていた。慌てて見れば一人も合格者がいなくて、ネテロ会長が代わりの試験を用意するようにメンチに言っていた。良かった、これで不合格になんかなったら兄の面目丸潰れだからな……。ヒソカも不合格だったがまあ、オレのが色々と経験を積んでるわけだし。頼りにならない兄なんて、二人とも幻滅するだろう。ヒソカ、クラーレ、兄さんはお前たちの「頼りがいのある兄」でいるために頑張るからな!!


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