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 そしてそれから六年。私は身体の成長という、動物として必要不可欠なものを代償に強力な念を使い続けている。まあそれ以外にも頭をぐるっと囲むように十字の文様が浮き出たり肌が灰色っぽくなったりしたんだけど、それは日常生活を不自由にすることじゃなかったから気にならない。生意気そうな顔をしているなと我が顔ながら思っていたけど、これでは灰男のロードにしか見えない。私の名前もロードだけど。

 見た目がロードな私だけど、あのマンガみたいな性格をしているわけじゃない。自分で言うのもなんだけどまあまあ真面目でしっかりしているタイプじゃないかな? ――そのせいで出奔とか家出とか(同じ意味)をするのは何となく忌避してしまって籠の鳥状態を抜け出せずにいるんだけど。言われるがまま求められるがまま末期の病気を治せば体がだるくなり、瀕死の重傷を治せば体がバラバラになる様に感じられる。半時間も休めば収まるからせっぱ詰まった悩みというわけじゃないんだけど、治して寝ての生活には良い加減飽きてきた。


「そういえば、兄上はどうしておられるのかな」


 これまでのことを思い返して、久しぶりに思い出した兄の存在。ククルーマウンテンをまるごと購入したと噂に聞いたときに頭を抱えてしまったのは良い思い出だ。ボソリと呟けばその瞬間私の体は何かに引っ張られ、その場からジェットコースターで飛び出したような風圧と後退する視界に混乱した。


「え、えっ――えっ!?」


 安楽椅子に座った状態のまま、私がいる場所は一変していた。洞窟の中のような妙な冷えが足下からじわじわと這いあがり、直径三センチほどの穴から以外に光が射さない室内には蝋燭の明かりがぼんやりと灯っている。


「やっと来たか、ロード!」


 爆音と共に扉を破壊して入ってきたのは久しぶりに見る兄で、すぐ後ろに銀髪の美女を伴っている。


「兄上、これは一体どういう?」

「物に異能を込めることができるという職人に言って作らせたんだよ、ロード。誰かがこの椅子に座っている時に僕のことを口にしたら、椅子が座った人間ごと僕の元へやってくるようにってね」


 この安楽椅子は君専用の椅子だから他の人間が座ることもないだろうしね! と明るく言った兄に右手を振った。


「いえいえ、兄上。そうではなくて――それも聞きたかったことですが――何故私をここへ?」

「何故って、あの頭の固い父から君を助け出す為さ、僕の可愛い妹よ! ここ数年は君を閉じこめるばかりか、君の力を利用するだけ利用した金の亡者に成り下がったと言うじゃないか。そんな君を僕が放っておけるわけないだろう」


 私を抱き上げてニコニコと微笑む兄は全く悪びれる様子もない。今はあんなでも元は優しかった両親なのだ、私としてはこんな置き手紙も別れの挨拶もなく離れてしまったのは不本意だ。けど、兄がこうしなければ私は一生外に出られることはなかっただろう。兄の妻だというパンジーさんからも歓迎のハグをされて大きな胸のために二度ほど窒息死(すぐ蘇生したから今も生きてる)させられながら、新しい生活にちょっとだけ胸を高鳴らせた。







 両親が落ちぶれて兄を訪ねてきたと、一年ほど経った時に聞いた。でも私が聞いたのはもうとっくに追い返された後だったからどうすることもできず、また、どうこうしてあげたいとも思えず話は聞き流した。――もうその時には、私は医療目的の宗教団体を立ち上げて活動していたから。


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