Side: MUKURO.R



 マチが死んだという知らせを受けた僕が最初にしたのは、人を呪う言葉を吐くことでした。涙はどうしてか、どうしてか出ませんでした。


「だからマフィアは……! あの子がいったい何をしたって言うんですか!? 利用されて、氷に閉じこめられて、死んだだけの一生なんて。門外顧問は死ねば良い。九代目も死ねば良い!」


 初めて会ったあの日、彼女が言った腐った林檎のたとえを思い出す。どうせ腐った林檎からは蛆虫しか生まれないのだというあの言葉がその通りだと、まるで証明しているようではないですか。

 だが、一番呪いたいのは自分自身。あの子の限界に気づけなかった僕自身に一番腹が立つ。彼女が幻術を使っているのは分かっていたけれど、何か理由があるのだろうと聞かなかったのが間違いだったなんて。


「骸しゃん……」

「骸様」


 二人が涙をこらえているのを横目に見る。彼らも彼女と少なからず交流があったから当然かもしれない。


「マチはボンゴレによって殺されました。僕たちはマチの弔い合戦をしなければなりません」


 二人にそう伝える。エストラーネオファミリーは僕たちに世にも恐ろしい実験をし、僕たちはそれに対して逆襲しました。ですが、マチは……。ヴァリアーが検屍したところ八年間の氷漬けであったために体は既にボロボロ、生きて動いていた方が不思議だと医者が断言するほどの状態であったとか。


「マチ、貴女の仇はきっと僕たちが……」


 そう誓いの言葉を呟いた時、突然視界が歪んだ。


「っとと」

「骸様、どうしたんですか」

「大丈夫れすか、骸しゃん!」


 たたらを踏んだ僕に驚いた二人が慌てて体を支えてくれる。あれ、何故でしょう――なんだかとても眠い。


「すみません二人とも、何故か凄く眠くて……」


 そして僕は何かの力によって強制的に夢の世界へ降りていった。









「骸、こうやって会話するのは久しぶりさね」


 僕を待っていたのはマチで、僕はつい彼女の体をペタペタ触って確かめてしまいました。ここは幻想世界だから現実の肉体とは全く異なると知っているけれど、確かめずにはいられなかった。


「マチ、マチマチマチマチマチっ! 貴女が亡くなったと聞いてどれだけ……どれだけ僕が悲しんだと思うんです!」


 切り刻まれたかのように心が痛かった。まるで門外顧問にあざ笑われているかのように怒りが体を満たしたのだ。

 細い体を抱きしめ肩に顔を押しつければ、背中に回された手が僕の首や頭を優しく撫でた。


「すまない。何も言わずに死んだことを後悔はしていないが、骸たちの気持ちはわざと考えなかった。悲しませてすまない、本当に」

「貴女は酷い人だ。僕をこんなに悲しませたことを後悔してさえくれないなんて」

「私は恐がりだからね、面と向かって言う勇気がなかったのさ」


 きつく抱きしめられては表情を見ることもできない。体勢もそのまま話し続ける。


「治療しても無駄だろうことは私自身が良く理解していたよ。あの氷に閉じこめられたままなら何年でも生きてられただろうこともね。だがあの状態で五十年生きるのと氷の外で一ヶ月生きるのなら、何度同じ選択肢を提示されたとしても私は氷の外を選ぶ」

「僕はっ、生身の貴女に触れることすらできなかった……!」


 交わした言葉はほんの少しで、それも彼女はフードを深くかぶり顔色を隠していた。


「私を責めてくれ、骸。私はお前に甘えてばかりだ」

「責められるわけっ――責められるわけ、ないでしょう!?」


 責められるべきは僕です。気づいていたのに訊かなかった。誰でも良いから僕を大馬鹿者と言って欲しい。とんだ大間抜けと罵倒し、殴り、蹴り、横面を張り倒して欲しい。お前のせいでマチが死んだのだと傷口に塩を擦り込むように。そうすればやっと、僕はマチの死を悲しんで苦しんで悩んで悔しがって、やっとそれで受け入れて、泣ける気がする。


「骸、聞いてくれ。今私は別の世界に生を受けている。この世界ならきっと私自身の夢を叶えられそうな気がするんだ」

「別の世界?」

「そうさね……日本もないし、アメリカもロシアももちろんイタリアもない、全く違う世界さ。だがここでなら私の夢は叶う! そう確信しているし、直感も告げてるんだよ」


 だから弔い合戦なんてして私のために手を血で汚すな。ボンゴレを潰すのは私と同じ目に遭ったザンザスの権利なんだから、復讐はザンザスに譲ってやれ。そして、楽しく生きてくれ。

 と、マチは言った。でも。


「嫌だ、嫌です。僕だって貴女という友人を殺されました。復讐する権利があっても良いはずです!」

「骸」

「友人を奪った九代目を門外顧問を、僕は許せないんです」

「骸……。有り難う。凄く嬉しくて……何て言えば良いのか分からないよ。嬉しい。うれ、しい。私は本当に良い友人を得たと思う」


 泣き出したマチを抱きしめながら、僕も気がつけば泣いていた。何でですかね、さっきまでは泣けないと思っていたのに。誘発されたんでしょうか?














「ちょっと! 隊長と副隊長じゃギャラが全然違うんだよ!! 地位に興味がないなら辞退してよね!」

「何を仰るやら分かりませんね。僕には養い子がいるものですからお金がかかるんですよ」

「副隊長でも十分なくせに何言ってるんだい!?」

「お前らちょっと黙れぇぇ!」

「テメーが黙れ」

「グハァ!!」

「やだ、シャツにワインが付いちゃったわぁ」

「シシ、カス鮫に請求しときゃ良くね?」

「るせぇカス共――辞令は変わらん。六道骸、テメーは今日から霧隊の隊長だ。分かったな」


 僕は仕方なく肩を竦めた。


「仕方ありませんね。では、隊長勤めさせて頂きますよ」

「そんな、ボスっ!」

「黙れ」


 マチ、今僕はヴァリアーにいます。貴女の復讐の手伝いをしたいと申し出たら案外あっさりと許可がおりまして、なんと霧部隊の隊長だそうです。

 マチ、見ていますか? というか今度幻想世界で映像を見せてあげますから感想を下さいね。絶対ですからね。


――11/29.2011


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