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 十代目筆頭候補の沢田マチ――十年ほど前はその名前を頻繁に耳にした。同盟ファミリーのボス達をしてボンゴレの鬼才と言わしめ、敵対ファミリーには第一暗殺対象として命を狙われた。だが、その命はゆりかごに散った――そう、言われていた。誰が知りうるというのか? 我が子可愛さに従姉の娘を利用するなど。まるで悪魔の所業じゃのーか?


「リボーンの知ってることはそれで終わり?」

「いや、まだある。だが元々オレはフリーの殺し屋だからな。十年前の、それも内部情報を全て知るのは無理だ」

「そっか……」


 オメーを十代目に育て上げるようにという依頼を受けた時、オレはあのマチの弟だというオメーも姉のような傑物だと思っていた。かの伝説の血縁をオレが教えるという事実に酔い、日本に飛ぶ前に酒場で自慢した程浮かれたな。あのマチの弟を、オレが! と。まあ、その期待もすぐに打ち砕かれたわけだが。

 十年前、マチは何人もいる十代目候補達から一歩頭の突き出た二人――双頭の片割れだった。もちろんもう一人はザンザスだぞ。

 マチは四歳の時には既に十代目として十分すぎるほどの能力と力があると言われ、幹部連中もザンザス派とマチ派に分かれて対立していたそうだ。対立するくらいならザンザスとマチを結婚させようかなんて話もあったらしいぞ。


「ちょっと待ってよリボーン! ザンザスてマチさんって十歳も離れてるだろ!? おかしいよ!」

「馬鹿か。政略結婚に年齢なんて関係ねーぞ、ダメツナ」


 馬鹿を抜かすツナの頭をポカリと殴る。いてえという小さな叫びが上がった。


「マチの死はゆりかごに巻き込まれたせいだとボンゴレは発表した――まあ、巻き込まれたっつーのは間違いじゃねぇが正しくもねぇ。参加してたんだからな」


 それもテロを起こす側として参加してんだから、巻き込まれたってのは正確じゃねぇ。物は言い様だっつーことが良く分かるってもんだな。


「それと、ここからはヴァリアーの連中から聞いたんだがな。マチの母親であるトモコは自殺したっつーのは嘘で、門外顧問に毒を盛られて死んだそーだ」


 玉虫色の言葉に騙され我が子を奪われた哀れな女は、ボンゴレで働くうちに手にした伝を使って掟の番人に訴えようとしたそうだ。しかしそれは失敗し、待っていたのは死。


「……門外顧問は、なんでそこまでしてオレを十代目にしたがったの?」

「自分の夢を息子に押しつける父親なんざそこらにゴロゴロいるぞ。超直感に目覚められずドンを継ぐ資格がなかった家光は、オメーに自分の夢を叶えて欲しかったんだろうな」

「だからって、人を不幸にするのは間違ってる! そんなことをするあの人の頭が分からないよ!!」


 興奮して声を荒げるツナの頭を叩く。うるせー、叫ばなくても聞こえる。


「オメーが思ってるほど、人ってもんは優しくできちゃいねーんだ、ツナ」

「でも、おかしいだろ!? そんな簡単に人を殺せるなんて。なあリボーン、オレがいなかったらマチさんは今も……」

「だからオメーはダメツナなんだ、ダメツナ。マチについてお前が負うべき責任はねぇ。オメーが申し訳なく思う必要もねぇ。暴走した家光と、それを止めなかった九代目が悪ぃんだ」


 ザンザスはボンゴレを潰した。そしてそれは正しい。肥大化し溜まった膿を絞り出すには量が多すぎ、絞りきったとして残るのはもはやボロボロの芯だけだ。すぐ折れるのは目に見えている。


「オメーがするべきなのはマチみてぇな不幸が起きないようにすることだぞ、一代目」

「――うん。そうだね、リボーン」


 ボンゴレは解体され、新しいファミリーとして生まれ変わる。血縁でボスを決めない、第二のザンザスやマチを作らないファミリーに。

 ツナは手を握りしめ呟く。


「悲しみを繰り返さない、そのために」






 ――――ピンク色の髪をした大空が振り返った。旅する全ての人の指針を指差して微笑む。

 ほら、北極星だよ! と、幼い声が響いた気がした。


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