雲戦では雲雀恭弥がモスカを殴りとばし、そのせいかバグを起こし暴走したモスカがこの場の全員に無差別に攻撃を始めた。特に動く的へは集中してミサイルやなんやらがお見舞いされ、みんなを守るため綱吉がモスカを破壊した。その覚悟は素晴らしいと思うし、私も嫌いじゃない。だが、九代目と門外顧問を私は許せない。だから私は門外顧問の一番の願いを潰そうと決めている。つまり、綱吉の十代目就任の意志を粉々に打ち砕くつもりだ。


「私の弱さが……ザンザスを永い眠りから目覚めさせてしまった……」


 モスカから落ちた九代目は重傷で、綱吉はキッとザンザスを睨み上げた。ザンザスは哄笑しながら綱吉を責め、それに綱吉が呟いた言葉は『許せない』――


「許せない、か。なら私は九代目を許せない。門外顧問を許さない。沢田綱吉という存在を許せない。ボンゴレを許さない。私を私にした全てを許したくない」


 ザンザスの後ろから現れた私に、この場の全員の視線が集まる。フードを外せば綱吉のそれと髪質の似たピンク色の髪と、やはり綱吉のそれと似たT世の再来と言われた顔が露わになる。


「オレ……そっくり?」

「違う。お前が私に似ているのさ、沢田綱吉。私はこれでもお前より二年長く生きている」

「え、どう見ても七歳かそこらにしか見えないけど!?」


 綱吉がそう言った途端、ザンザスが腹を抱えて大声で嘲った。


「テメーの家庭教師が言っただろう、オレは八年間眠っていた。マチもオレと同じく八年間眠らさせていたんだ! そこのジジイにな!」

「え」


 ザンザスは私の頭をグリグリと撫でた。手を叩き落として少し睨めば面白そうに目を細める。そんな雑な扱いをされたら、ただでさえもう時間がないのに――


「どうした」

「そこからは私の話だ。ザンザスが話すのはおかしい」

「はっ! テメーとオレの話は被ってんだろ。オレが話してワリーか」

「私が話すと言っている。盗るな」


 私を興味深そうに見ているリボーンや顔をしかめている門外顧問、横で九代目の応急処置に忙しくしている医療チーム、綱吉の守護者たち――全員を見回す。


「私はザンザスと一緒に、八年前に内部抗争を起こした。だが、お前たちの知るゆりかご事件のとある情報は秘中の秘として隠匿された。それは私の存在。十代目として筆頭候補であったはずの私が何故九代目を襲ったのか? それはそこの九代目と、門外顧問である沢田家光は知らないだろう。私がとあることを知っているということを知らないのだから当然さね」


 そこで一息つき、綱吉を見つめる。


「沢田綱吉。私はそこにいるお前の父親の養子となり、お前に行くはずだった全ての危険をこの身に被った」


 門外顧問が顔色を変えた。


「――ッ! 何を根拠にッ!」

「黙れ門外顧問。貴様が私を養子として引き取ったのは、貴様の妻奈々の妊娠が分かった後だ。トモコに、まるで私が貴様に引き取られた方が私にとって良いことであるかのように言ったな? 知っているぞ、貴様は我が子可愛さに従姉の娘を生け贄にしたことを」


 私は全てをぶちまけていく。だんだんと綱吉の顔色は青くなり、リボーンも眉間に深い皺を寄せていった。


「さぞかし愉快だっただろうな、門外顧問? 私がゆりかごを起こした後は祝杯でも開けたか? なにせ私は筆頭候補……ただの身代わりのつもりが、これ以上ない目の上のたんこぶになったのだからな」


 嘲笑すれば門外顧問は何度も「違う」と叫んだが、その言葉を重ねれば重ねるほど言葉の重みは失せていく。


「九代目に氷漬けにされて八年間、私はずっと意識を保っていた。邪魔な筆頭候補への嫌がらせだったのか? 私は身動き一つとることができず、氷の前で泣くトモコを見続けた。トモコの涙は面白かったか?」

「なっ、八年間も!?」

「酷ぇな……」


 綱吉率いる守護者候補たちとキャッバローネの幹部連中がざわめいた。それはそうだろう。たった六歳の子供を身動きのとれない状態で八年間放置したなど、非道という言葉に尽きる。


「そんな、そんな――オレは知らなかった!」

「知らない、で済ませることができると思っているのなら、門外顧問、貴様の頭はずいぶんとお天気なようだ。私は絶対に貴様を許さないぞ。トモコを騙し、私を騙した。八年間の孤独が貴様に分かるか? 幻想散歩をしている六道骸に出会わなければ、私は会話相手さえなかった」


 綱吉の目からは闘志が消えていた。そして灯っているのは父親への嫌悪感と悲しみ、憐憫、申し訳なさ――否定的な感情のほとんど全てが混ざりあった火だった。


「父さん、いや、ボンゴレ門外顧問。オレは絶対にボンゴレを継がないよ。継ぎたくない……そんな悲しい玉座に、オレは座れない」


 勝った。綱吉が継がないことを決意した。リボーンもキャッバローネもその確固たる決意を聞いた。つまりこれは公式の発表と同義だといえる。


「はは、ザンザス。私たちは勝ったようだ! 門外顧問に、九代目に!」

「そうだな」

「――ああ、ザンザス。頼みがある」

「あ? 何だ」

 横に立つザンザスを見上げれば、ザンザスにしては柔和な笑みを浮かべていた。ザンザスになら頼める。ザンザスにしか頼めない。唯一同じ思いをした彼だからこそ頼める、最後のお願いを。もう壊れそうな、私の代わりに。


「私の代わりに、門外顧問への罰を与えてくれないか」

「テメーのことだろうが、自分でしやがれ」


 私は首を横に振る。私には出来ない。何故なら――


「私はもうタイムリミットさね。八年間の眠りは、この体にはキツかったようだ」


 もう幻術をかけ続ける力もわずかしか残っていない。幻で良いように見せていた顔色は真っ青だし、気力で踏ん張っていた足下ももう危うい。ザンザスが慌てて私を抱き上げるも、背筋を伸ばしていられずぐったりともたれ掛かった。

 八年間だ。八年間、私は氷漬けだった。白人の成長は早いから、ザンザスの体は十六歳の時にはもうほぼ大人のそれと大差なかった。だが私はまだ成長期だったのだ。無理矢理押さえ込まれた成長と、生きた年数以上の拘束は、私の体をだんだんと破壊していった。外へ放出されるはずだったエネルギーは内へ、まだ完成されていなかった肉体は悲鳴を上げていた。ガタがくるのは当然だった。


「マチ! マチ!! どうしたんだ――くそっ! 認めねーぞマチ!!」

「なあ、ザンザス。友となるのに時間は関係ないと聞くが、お前は私の親友だった」

「キャッバローネ! マチを看ろ、早く!」


 ザンザスの怒鳴り声が聞こえる。しかしだんだんとその声は小さくなっていく。


「ザンザス……お前という空で、私は、輝く星に」


 お前という空に輝く、北極星になりたかった。なあ。










 視界も思考もシャットダウン。『沢田マチ』という存在は終わった。

 尻切れトンボな終わり方、未練ばかりな終わり方。でも、私は満足していた。何故なら、心の底から信頼している友に託すことが出来たから。





 さあ。今度は自分が空になるために、新しい旅を始めよう。


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