ついこの間五歳になった私は、とても賢い子供だった。何故って精神はすでに三十路近い社会人なのだから当然といえる。そしてこの体のおかげなのか一を聞けば十が分かるという天才ぶりを発揮した。身体能力も高く、まさに文武両道の有望な十代目候補。皆が私を褒め称え、将来のボンゴレは安泰だと胸を撫で下ろした。私の世話係のトモコ――日本人で、漢字は智子と書くらしい――も優しくて、私が何かを覚えれば我がことのように喜んでくれる素敵な女性だ。私はトモコみたいな大人になりたい。前にそう言ったらトモコが泣き出して、宥めるのにとても困った。

 聴きたいことがあって、一応遺伝子上は父親である家光を探して九代目の執務室まで来た。つい先日知ったことなのだが私とザンザスの年齢差は十歳――原作のツナとの年齢差は十二歳だったはずだから、私は成り代わりではなく姉に転生とかそういうのかもしれないと思ったのだ。弟がいるなら会いたい。

 扉の前で警護しているおじさんたちが、家光と九代目は重要な話をしている最中だから入ってはいけないと私を引き留めた。――そして。仕方がないので扉に背を預けて待っていた私の耳に飛び込んできた話し声は、私の足場を破壊するにふさわしいものだった。


「マチは才能あふれた子供だ……綱吉君の身代わりにしておくにはもったいないくらいに」

「ですが、十代目はオレの子供の、綱吉のはずです! あくまであの子は盾だとおっしゃったじゃないですか、九代目」


 日本語だから他の人間には分からないと思ったのか、二人は執務室の中でそんな話をしていた。あまりに驚きすぎてその場に座り込んでしまう。


「だが、ただの身代わりで燻らせるにはあの子は才能が有りすぎる。それに傍流だとはいえあの子だって初代の血筋だ」

「なら守護者や門外顧問にすれば良いじゃないですか」


 トモコもそれで納得するでしょう、いえ、納得させてみせます、と。そう言った家光の言葉に顔から血の気が引いていく。もしかして、ああ、もしかして、これは。そんな。

 今聞いたことが信じられないまま部屋に帰った私を出迎えたのはトモコで、私を見た瞬間嬉しそうに微笑んだ。まるで母親のように。もしかして、そんな、もしかして。


「どうかなさいましたか? マチ様、お顔の色が優れませんよ」

「なんでもないよ、トモコ」


 私とトモコの髪質はそっくりだと、ボディーガード役に言われたことがある。

 私とトモコの目元はそっくりだと、庭師のおじいさんに言われたことがある。

 トモコが漢字で書いた私の名前は、ノートの表紙に堂々と胸を張っている。沢田真智。トモコの漢字は智子。『一緒の漢字だね』と笑った覚えがあるこれはもしかして、唯一私とトモコを繋ぐ縁の証だったのか――ねぇ、そんな、嘘だと言って、ねぇ。そんな酷い話なんてないって言ってよ、ねぇ。

 知らなかったよ。九代目も、門外顧問も、人非人だっただなんて。


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