きいいん、と飛行機の音がする。空港の近いここ近辺は家賃が安いのが長所で、夜間の騒音にイラつくのが短所だ。せっかくの土日ということで買い物に――出るわけがない。友達と遊びに――も行かない。私がするのは家でだらだらと寝転がって漫画を読むことなのだ。ファッションに対する拘りもないから普段着はイズミヤとかのゆったりサイズだし、就職した結果引っ越してきたこの県には友人が一人もいないから一緒にカラオケや買い物に行くなんていうこともない。

 男にも興味はない。というか、子供を持ちたくないから恋人も欲しくない。誰だよ、虐待された子供はまたその子供を虐待することが多いって統計だした奴……怖くて子育てなんて無理になっちゃったじゃないかよ。短パンからむき出しのふくらはぎをボリボリと掻いた。秋口の蚊は痒い。

 きいいん、と飛行機の音がする。集中してたら気にならない音量だけど、子育て中の奥さんには迷惑極まりない音だと思う。――ま、私はどうせ一人身だし。気にならんよ、と漫画に目を落とす。リボーンはリング戦までが好きで、未来編とかは嫌い。ジャンプの厭らしい手口が透けて見えて、それが顕著になった未来編はもう……無理だわ。時々してる立ち読みでの情報だけど、えーっと、今はアルコバレーノ編だっけ? 未来編、継承式編、アルコバレーノ編――ドラゴンボールシリーズみたいなことになってて呆れる他ない。バトルに次ぐバトルっすか、ははぁ、どうぞご自由に、みたいな。

 元から冒険とかバトルを見据えて描いている漫画なら良いのだけどね、たとえばブリーチとかHUNTER×HUNTERとか、ぬらりひょんの孫とか。初めは理不尽ギャグだったのに、一体あのノリはどこ行ったんだろうか。つまらん。綱吉が格好良く成長する過程とか知らんし。

 きいいん、と飛行機の音がする。どうしてだろう、普段よりも大きく聞こえる。顔をあげてベランダの外を見た。

 飛行機の鼻先が、今――――――――――――










 だんだんと目が覚めていくような感覚。たとえるなら、プールの水面に浮かび上がっていくような感覚がする。沈んで、浮かんで、沈んで。誰かに呼ばれたような気がしてはっきりと覚醒したのは、この体が三歳の誕生日を迎えた夜だった。


「さわだ、まち。今日で三歳――」


 ローマ字で書かれた『私』の名前に、お祝いの言葉なんだろうけど筆記体が流麗すぎて読めないグリーディングカード。広々とした室内には天蓋付きのベッドが一つに装飾も凝ったサイドテーブル、水差しとグラスの乗った盆だけ。


「成り代わり?」


 私の質問に答える人はいなかった。


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