トリコが小松に連れられてグルメパレスにやってくる――というよりは、小松のつてを使ってトリコが私の料理を食べに来るというのが正しいかもしれない。トリコも独自のつてがあるだろうに小松を使うのは、やっぱり小松を立てるためなのかな。


「ここがグルメパレス! 楽しみだし!」

「へえ、さすがパレスと言うだけはあるね」


 私の先に聞いた話ではトリコだけのはずだったんだけど――四天王の三角が集っているのはなんででしょうね?


「ごめんね小梅、先に連絡できれば良かったんだけど」

「スマン、グルメパレスに行くっつったらコイツらも行くっつって聞かなくてな」

「仕方ないなぁ……小松に免じて今日は貸切にしてあげるよ」


 小松が両手を合わせて謝ってるのに、サニーは何とも思わない様子で店内を見回し、ココはごめんねなんて軽く言って片目を瞑っている。なんとも自由人な奴らだ。ちょっとは小松を見習えば良いと思うな、礼儀正しさとか。


「で、予定外のお客様方はいったい何をご注文になるので? ちなみに小松とトリコは『小梅のフルコース』を一通り食べたらあとは自由に注文するって形ですけど」


 私がそう言うとココが目を見開いた。


「君、その年齢でフルコースがあるのかい?」


 何を言ってるんだろうか、と一瞬思ったけどすぐに思い出した。そういえばここのグルメハンターの方々は、自分のフルコースを作るために各地を徘徊しているんだった。


「ああ、『フルコース』と言ってもそんな大げさなのじゃないです。ていうかフルコースっていうよりも定食だし」


 なるほど、と納得したらしいココは自分もそれにすると言って、サニーは早々にテーブルにつきさっさと料理を出せとばかりに私を見ていた。激辛ビビンバでも出してやろうか。






「これは……」


 決して珍しい食材を使っているわけではない。もちろん、グルメパレスの名に見合ったクオリティの食材であることは分かる、分かるのだけれど。


「ありえないし……」


 ただ『切っただけ』であるはずの刺し身に目を見開き、手作りソースを『かけただけ』の小松菜のお浸しに頬が落ちる。しじみ汁はこれほど味わい深かっただろうか?

 小梅ちゃんははじめ、梅定食と名付けるつもりだったらしい。それを支配人と他の料理人が待ったをかけて小梅のフルコースという名前にさせたのだ、と。なるほど、これをフルコースと名付けるよう押し通した彼らの気持ちも良くわかるというものだ。これは定食とは言い難い。


「外人のココさんたちがお箸使えるみたいで安心しましたよ。さすがにお刺身をフォークでブスリとされちゃたまったもんじゃないですから」


 小梅ちゃんのそんな言葉も耳に入らないほどのボクたちをよそに、小松君は美味しい美味しいと言いながら箸を進めている。


「小松君、どうしてそう――味わわずに食べられるんだい?」


 これは神の領域だ。グルメパレスのあの厳重すぎるほどのガードマンたちも、きっとこの小梅ちゃん一人のために雇われているに違いない。そう確信できるほどのものなのだ。


「え? ああ、いやぁ……小梅の作ったごはんを食べるのは久しぶりですけど、やっぱり家庭の味っていうのかな? 懐かしくてついつい箸が進むんですよね」

「ありえないし……コーメの料理を家庭の味とか」

「小梅、嫁に来ないか?」

「一昨日きやがれ」


 サニーが信じられないものを見たかのように小松君を見、トリコは小梅ちゃんを嫁に誘っている。僕も信じられない――この味を家庭の味と言う小松君に。この味を出せる小梅ちゃんに。


「小松、次は何食べたいの」

「んー、じゃあこの焼うどんで!」

「分かった」


 小松君、どうして君はそんなチョイスなんだろうね!?


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