小金井は私を同行させるのを渋った。どうやら紅麗が私を戦闘に参加させないように言い含めてあるらしいけど、見てるだけだからとお願いして連れて行ってもらった。


「おいーっス!」


 立っていても手持無沙汰ということで、壁に作りつけられた鏡台に腰かける。被害がこっちにまで及びそうだったら攻撃すれば良いし、ここのメインは小金井であって私はおまけ。


「げっ! 小金井……と、誰?」

「ああ――っ!」


 願子ちゃんが私を見て首を傾げ、烈火が小金井を指差して大声を上げた。


「てっ、てめえは姫と先生をさらったクソガキ!!」

「あれ、兄ちゃん? 侵入者って兄ちゃんのことだったのかぁ!」


 肩を怒らせて怒鳴る烈火に対し、小金井はあくまで冷静だ。そりゃあ奪われた側じゃないし冷静であるのは当然だろうけど、烈火が大人げなく見えるのは……どうなんだろうか。


「てめえ――姫はどこだ!?」


 烈火は土門と一緒に小金井に飛びかかる。流石は忍者、ジャンプ力は半端じゃない、けど。小金井の方が一枚上手だからなぁ。願子ちゃんが制止の声を上げるけど、遅い。こういうのは移動中に『当たったら怖い敵』の情報を共有しておくべきだよ。

 二人の攻撃を鋼金暗器を瞬時に組み立て床を殴りつけることで二人の後方へ飛んで回避し、振り帰り際に暗器を振りぬき殴りつける。――うん、やっぱり良い動き。


「――剣道三倍段って知ってる? 剣を持たない人間が持ってる人と戦うには、三倍の段数がないと勝てないんだって!」


 小金井のこの言葉は『武器もない人間が自分に勝てると思うのか』というのの裏返しだろう。烈火たちは小金井の暗器は剣ではなく薙刀だ、オレも立派な剣(イチモツ)を持っている云々と騒ぎ、言いたい意味が伝わってないだろうことは容易に判断できた。なんというか……ジャンプで連載できない作品だなぁとしみじみ思う。千九百八十年代から九十年代前半なら平気だったかもしれないけど、今のジャンプじゃ縛りが強すぎてジャンプマークの修正が入るシーン大量にあるし。それに友情努力勝利のスタンスからちょっと外れてるし。


「あれ、願子裏切ったの? やっぱり子供だなァ」


 小金井は願子を見て目を丸くし、肩をすくめながら言った。――まあ、紅麗二従ってた理由も理由だしね。血の通わない人形よりも血の通った人間の方が良いだろうし。


「なっ!? なによぉ! 小金井だって子供じゃんか!! そこの子だって私とあんまり変わんないでしょ!?」

「あれ、願子は蒼薇様のこと知らなかったの?」


 柳は外部の人間だから彼女の前では私のことを様付けしなかったけど、基本的に小金井は私のことを様付けで呼んでいる。まあ紅麗の妹だから当然のことだし、二人でいる時は気楽にちゃん付けにしてと言ったから気にしてないんだけど。


「誰だこの餓鬼?」

「そういえばさっきから攻撃してくる様子がないけど――」

「将来美人になるなぁ」


 上から烈火、風子、土門。土門後で撫でてあげよう。


「この方は紅麗様の妹、蒼薇様だよ!! 願子は知らなかったみたいだけど」

「ええ!?」

「じゃあこの子も黒幕の一人なの!?」

「あの野郎に妹がいたのか!!」

「まあオレは風子一筋だけどな!」


 願子が顔色を悪くする。紅麗を裏切ったって言っても忠誠心の残り滓はあるらしい、私を怯えた目で見てきた。――忠誠心じゃなくて畏怖だったか。


「小金井、ここにいても無駄だよ。皆弱いもん――」


 私は子供らしい言葉遣いを心がけてる。『パパ』こと森光蘭の目を欺くには麗の全ての目を欺き続ける必要があるから紅麗の前でも素の私を出せることはない。でもそれももうすぐ終わる――森光蘭の目が無くなったら、本当の私を見てもらうから。


「そだね。ホントにガッカリだよぅ! 肩すかしくっちゃった」


 小金井は一つため息を吐いて私に頷いた。さあ、三人はどう出るか――知ってるけど、ちょっと楽しみだ。


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