紅麗と暮らし始めたって言ってもいつも紅麗と一緒にいるわけじゃないし、月乃さんと対面したわけでもない。だいたい別荘で暇を持て余してるんだけど――どうやら原作が始まってたみたいだ。


「原作――」


 もし、今ここで烈火たちを再起不能にしてしまったらどうなるんだろう? 紅麗と森光蘭のサシでの争いになるんだろうけど、その時期は大幅にずれるか、ずれなかったとしても話の展開は大きく変わるだろう。展開が予想できないものになれば私の原作知識の使い道はほぼないと言える。なら、今回私の出番はない。

 窓の外で打ち上げ花火がドーンドドーンと上がり綺麗だ。読んでいた本にしおりを挟みテーブルの上に置き、眼鏡をはずして眉間を揉む。目を開けば脚を走る線が見え、椅子を走る線が見え、床を走る線が見える。別に眼鏡に幻想殺しをかけなくても良いのだけど、何か分りやすいもので直死を打ち消そうと思ったら志貴みたいに眼鏡に落ち付いてしまった。

 ため息を一つ吐いて立ちあがり、ポケットのナイフで椅子やテーブル、本も切り刻む。どうせこの別荘はもうすぐ壊れる。今椅子やテーブルの一つ二つ壊したところで何の問題もない。


「ハァ、ハァ……」


 足りない。これでは全然足りない。生きていない物をいくら壊しても満たされないこの渇きはきっと、私がどこか壊れてしまった証なんだろう。眼鏡を外せば覗くこの破壊願望を厭う気は全くないけれど、そのうち私は紅麗を殺したいと思ってしまう気がして怖い。

 だからこそこうやって破壊願望を満たしているのだけど。


「――さて、私はどうすべきかな?」


 さっさと逃げるか、紅麗と一緒にいるかしないと置いて行かれる気がする。――それとも小金井と一緒にいようかな? 年齢が近いからか小金井は私の面倒を見てくれる良いお兄さんだから。よし、小金井と合流しよう。確か小金井はおにぎりを持って行ったはず、私はお茶でも持って行こうかな。

 部屋の隅にある冷蔵庫を開ければ紅麗が私のために用意してくれたジュースやお菓子が入っている。横には紅茶のセットがあるけど私が淹れられるわけじゃないし、たいがいはベットボトルで済ましてるから今回にはちょうど良い。

 おにぎりにはやっぱり緑茶だろうということで緑茶のペットボトルを手に部屋を出た。他に持って行こうと思うものはないし、本はつい切り刻んでしまったし、どうせ紅麗がまた用意してくれるから何もいらない。向かうのは反省室――の横の、空き部屋。


「小金井っ!」

「わわっ!――って、なんだ、蒼薇ちゃんか」

「えっと、だーれ?」

「紅麗様の妹だよ! スッゲー良い子なんだ」

「紅麗、の……。よろしくね、蒼薇ちゃん」


 柳は顔色をサっと悪くしたけど、私と紅麗は別の人間だと思いなおしてか軽く頭を振り笑顔を浮かべ、右手を差し出してきた。私も握り返し、名乗る。


「蒼薇だよ、よろしくねお姉ちゃん」

「柳だよ」


 これでとりあえず、置いてけぼりフラグは回避だね。ほのぼのと可愛いと私を撫でまわす柳にお茶を差し出す。


「はいお姉ちゃん、お茶」

「ありがとう蒼薇ちゃん!」


 満面の笑みで受け取る柳に、そういえばこの後彼女は電圧をかけられるはずだと思いだした。吐いたり――しないよね?


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