私が乳児だと思っているからか、父親こと森光蘭は色々と話を聞かせてくれた。私は正確にはあのお母さんらしき人の子供ではなく、遺伝子を組み替えまくった末に出来た試験管ベビーであることや、その遺伝子にはあの兄らしき少年のものを使ったこと。おや、そうすると私は兄と母の子ということになるのか。――なんて複雑な家族関係。


「蒼薇、お前はパパの言うことを良く聞くよい子になるんだぞ」


 赤ん坊でなければ私の顔はひきつっていたに違いない。なにこのおっさん気色悪い。いやらしい笑い声をあげるおっさんを無視し、私はこの生で得た能力の確認を行う。

 全てのモノに線が見える。血管のようにモノの表面を這いまわるそれは死の線で死の点だ。まるで人間が人間ではないような……常温のバターのように、簡単に切れてしまいそうなモノだという気がしてくる。これが直死の魔眼の副作用の一部だろう。脳みそが酷使され疲れるばかりでなく人間としての常識までも失ってしまいそうな、そんな気分だ。

 直死の魔眼とは、死を理解した脳と眼球のことをいう。一度死ぬか臨死体験をするかしなければまず発現しないだろう一種の超能力だ。その点私は一度死んでいるから問題ないだろう。


「蒼薇、蒼薇……よい子だ」


 赤ん坊だからなすがままだということは分るだろうに、森光蘭はされるがままの私にニヤリと笑む。本当に悪人顔だな、この男。よくこの顔で奥さんもらえたと思うよ。

 森光蘭は無視することにして、今度は幻想殺しを発動させる。そして幻想殺しにした右腕を見れば――思った通り、右腕の表面を走っていた死の線が消えた。超能力や魔術を殺す能力だから、この直死の魔眼の効果も殺される。魔眼殺しの能力がなくても幻想殺しがあればなんとかなるようだ。半分賭けだったけど上手くいって良かった。

 あと一つは……ねぇ? 攻撃に役立つわけじゃないし、ネタでしかないから横に置いておこう。吸血滑車とか分る人少ないでしょ。














 ナイフが一閃し、顔の半分を落とされた男が断末魔の悲鳴と共に地面に崩れ落ちる。


「素晴らしい。おお、おいで蒼薇。よい子だ――」


 幻想殺しを纏わせた眼鏡をかけ、光蘭の元へと走る。好きになれない男だが、この男がいなければ生きていけないから仕方ない。住む場所も食べ物も服も何もかもがこの男の懐から出ているのだから。それと、外へ逃げてどうするかというのもある。追手と延々続くいたちごっこになることは間違いないし、そんな生活はお断りだ。ちょっと我慢して森光蘭が死ぬのを待てば良いだけの話だからだ。このおっさんはあと数年内に死ぬ。だって紅麗がいたってことはこの世界は烈火の炎で、紅麗は見た目十代後半といったあたりだからだ。


「蒼薇、何か欲しいものはあるか? なんでも買ってやろう」


 光蘭は私を膝に乗せるとにやにやとしながら言った。目の前に死体があるにも関わらず平気な顔で娘を甘やかすのだから、この男の神経はどこかで狂っているに違いない。――まあ、その死体は私が生産したわけだけど。光蘭を裏切り、殺そうとした男だった。光蘭に反逆する限り私は相手を殺さなくちゃいけない。不本意だけど。


「ならお兄ちゃんが欲しいな」

「うん?」

「パパはお仕事忙しいでしょ。私、ずっと一緒にいてくれるお兄ちゃんが欲しい!」


 私は紅麗を兄だと知らない――ことになっている。少なくとも光蘭は私と紅麗が兄妹、否、親子であることを私に教えていないし、周囲の人間も言っていない。だからこれはただの子供の我儘。膝の上から光蘭の汚い顔を見上げれば、何かを思いついた様子でニィィと笑う光蘭がいた。私を刺客に送り込もうとか考えたんだろう。その考えは予想済みだ。


「そうか、蒼薇はお兄ちゃんが欲しいのか」

「うん!」

「そうかそうか……ふふふふふ」


 そして、光蘭は電話を取り上げた。内線でどこかへと繋ぎ、確かにこう言ったのだ。『紅麗にここへ来るように言え』と。

 十分とせずに扉がノックされ――そして私は会う。遺伝子上の父であり、戸籍上の兄である青年に。


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