生まれ変わったら何が欲しいって? それなら私は――










 目つきの怪しい男が私を見下ろしていた。向こうから女性の悲鳴が聞こえる中、男はニタリと笑った。見える。滲む視界でも見える……死の線が。男がゲラゲラと笑う声が耳触りで顔をしかめようとするが顔の筋肉が発達していないせいで笑顔にしかならない。赤ん坊が何もなしにキャッキャッと笑うことお天使がくすぐると言うが、赤ん坊にできる表情は限られているから必ずしも楽しくて笑っているわけではない。


「ふふ……父の顔が分るか、蒼薇」


 そうび……? それが私の新しい名前か。どんな漢字を書くのかは知らないけど、このおっさんのことだからもったいぶった漢字を当ててくれていそうだ。

 それにしてもこのおっさん、焦点あっているのか? ヤクをしているかのようで気味が悪い。


「妹を離せっ!」


 そんな中、小学生くらいかな? の声が響いた。おっさんが振り返り、私もそれにより声の主と対面することになった。だけど私には滲んだ黒い頭の塊が宙に浮かんでいると言う程度で、赤ん坊の弱い視力では少年の顔を見ることはできない。


「ハハハ! 妹を助けたいのか? だがそれは不可能だ。お前の大切な妹の命は――」


 おっさんが私の首に手をかけた。まるで絞め殺そうと言わんばかりだ。


「こちらが握っているのだからな」


 少年の息を飲む音が聞こえ、罵る言葉が続いた。おっさんは笑うばかりで聞き流し、どこかから女性がさめざめと泣く声が聞こえる。ざわざわという十数人以上の人間の息遣い、哄笑するおっさんのだみ声――最悪な成育環境だ。

 こんな中で私は成長しなければならないのかと思うと鬱になりそうだ。DVっぽい父親(きっと)、被害者の妻、父親から母親を守る息子、そして父親の配下らしい人たち、そして私。

 ちょっと泣いて良いですか。泣くよ、泣くんだからね? 思いもよらない事態でもうびっくりだよ。転生先がこんなのだなんて不幸にも程がある。


「妹――蒼薇を守りたければ従うことだ。貴様の『大切』なものは私が両方とも握っていることを忘れるな!」


 おっさんは私の兄らしき少年にそう言い放ち、ゲラゲラと不快な笑い声を上げながら歩き出した。後ろで暴れる物音がするのはきっと少年がなにかしようとしているからだろう。


「そう、び! そうびぃぃぃぃ!!」


 悲痛な叫び声を後に、私はおっさんに連れられてその場を離れた。この世界がどこなのかを知るまで、あと五年……。


1/5
×|次#

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -