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お袋は愉快犯だ。何をするにしても他人を巻き込まなければ気が済まないタイプで、オレたちは同じ体を共有するから巻き込まれる以前の問題だが、必ず誰か一人や二人は巻き込むのが常だ。今回の生贄は――オレだ。
「こりゃねーぜお袋……」
オレの隣にいるのはかの幻影旅団の頭、クロロ・ルシルフルだ。敵対している――わけじゃねぇ。共同戦線を張っていると言うのが正しいかもしれねぇな。
「あれは一体どうしたんだ?」
「いんや。ただ怒ってるってことは確かだな」
知能のちの字もねぇ怪物に追われながらオレらは案外気楽に会話する。クロロ・ルシルフルは念を使えばすぐにここから離脱できるだろうが、オレの念はそういうタイプじゃねぇ。
後ろから追って来るのは体長十五メートルほどの巨大なクワガタだ。あの角で刺されたら確実に死ぬ……影から離脱してしまおうか、いや――だがこのクロロに手の内を晒すのはなぁ、少しでも狙われる要素は減らしたいっつーか。
「どうやって逃げるつもりだ?」
「うーん、風遁でも使うか」
「布団?」
ヤベッ、口が滑った――と思ったら、風遁を布団と聞き間違えるとか……ねぇわ。腹がよじれる!
「ぷっ、ハハハハハハ! 違ぇよ、オレが言ったのは風遁! 術の名前だ」
気が付けばクロロに懇切丁寧に教えてやっていた。オレが使うのはオーラじゃなくチャクラと呼ばれる身体エネルギーと精神エネルギーを練り合わせた力で、これは訓練次第で使えるようになること。チャクラなら風遁、火遁、土遁、水遁などの多種多様な技を仕えること。
「オレの知ってる話じゃ、でっかい扇に乗っかって空を飛ぶ奴もいるらしいぜ」
「ほう、それは興味深いな……」
車いらずだと笑うクロロにニヤリと笑む。そうだ、そっちの奴から奪えば良いと思え。オレは存在自体が念みたいなもんだからな……盗まれちゃ困る。
「で、クロロはどうすんだ? このクワガタからどうやって逃げるつもりだよ」
「――俺は、殺してしまおうかと思っている」
「あれ、確かコイツ絶滅危惧種じゃねぇか? だからオレも逃げようと思ったんだが」
「そんなものはどうでも良い。俺の邪魔をすれば殺す」
そう言いつつ、オレに並走してもう三十分だ。疲れなんざ見えねぇがいい加減飽きたのかもな。
「まあ、オレも純真な動物以外はどうでも良いしな。よし、一丁やるか」
影首縛り――は首が分らねぇから無理。影真似も控えたいし、なにより向こうのサイズがでかすぎて大変だ。忍者らしくクナイと手裏剣ってか。
「って、ええー……」
オレが振り返りクナイを構えた瞬間、クロロの念らしい巨大な鳥がクワガタを噛み砕いた。
オレの出番……ねぇじゃん。
「はっ」
「ぷっ」
「ださいわね」
「今度があるよ」
「恰好悪いぞシカマル」
皆の馬鹿にしたような笑い声が聞こえた気がした。
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