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二百階以上だと賞金が出ない。って言ってももうありえんくらい稼いでるから切羽詰まってお金が欲しいわけじゃないんだけど、なんていうか――勝ち進んでお金がもらえるののって楽しくない?
「連戦連勝! この勢いはいつまで続くのかココ!!」
「登録から五日目にして百二十階まで勝ち上がってきた不動のココ、果たして今日こそは彼が一歩でも動くことがあるのか?! 試合から目が離せませんね!」
そんな声がマイク越しに響き渡り、ボクの相手である男を応援する者、ボクに声援を送る者などの怒号に近い歓声が会場を揺らす。――ボクを応援してる人に女性が多い気がするのは気のせいじゃないだろうね。
「へっ、不動だと? 怖がって動けないだけじゃねーのか、あ?」
一歩も動かず毒を飛ばして倒しているせいか、不動のココだなんていうあだ名がついてしまった。立ちぼうけもなんだし体を動かしたいなとは思うけど、こんな無駄な動きの多い相手に立ちまわるのは癪だし……今日もただ立ってるだけで終わるんだろう。
「その答えは君自身が理解することになる」
「ああん?」
長袖の服を着て来るのは腕に毒を集めてるのを見られないようにするためだけど、試合終了後には焼けてボロボロになってしまうのが難点だ。まあ、それ以上のリターンがあるから懐は全く痛まないから気にするほどのことでもない。
掌からじわりと毒が抽出される。軽い神経毒だ。体の大きさに合わせて量を変えて――弾き飛ばす! どこへ付着しても良い、体表からしみ込んで体の自由を奪うものだから。濃縮された一滴にも満たない毒は、その存在を知覚する前に効果を発揮する。
『ホントにその量で良いの?』
ヒソカがフと思考を飛ばして来た。あの体格だ、あの量で問題ない。毒は僕の領域だからヒソカの心配は無用だ。
「――ん? 変だなぁ……」
相手の男が首を傾げ、そして金棒を振り上げた。
「なっ?!」
『だから言ったのにぃ』
何故動ける? この体格には十分すぎる濃度の物を飛ばしたはず!
『ここらへんからは賞金稼ぎを相手にすることが多くなる。ちょっとした毒には耐性持ってると思うんだけど』
「――それを速く言って!!」
仕方なしにボクはその場を蹴って横へ避ける。重鈍な金属の塊が床をえぐり取る。
「おおおおお! ココが、ココが動きました――!! 流石のココも百二十階の壁は大きかったのか?!」
なんだかちょっとムッとする。好きで不動だなんていうあだ名を付けられたわけじゃないけど、まるでボクがこの程度の人間だと言われたようで嫌な気持ちになった。金棒を再び振りおろそうとする男に向かって飛び、足で首を抱え勢いを殺さぬまま回転した。男は地面に叩きつけられ、ピクリとも動かない。ボクの勝利だ。
『ココには珍しく辛勝だねー』
「今回だけだ――次からは絶対に、侮らない」
今度から毒に頼らずに戦ってみよう。ボクに足りないのは『ボク自身の』経験値だから。
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