05



 ひばなんとかさんは、雲雀さんと言うらしい。その人に捕まったんだと言ったらクラス内で英雄扱いされた。有難う雲雀さん、オレ、ダメツナってあだ名じゃなくなったよ!

 どうしてもお礼を言いたくて母さんにどうすれば良いか相談したら、どら焼きを焼いてくれた。十個焼いたのの六つを箱に詰めて、雲雀さんに言われたように早起きしてるおかげで余裕のある朝休みに雲雀さんを探した。先生に聞けばどこにいるか分るかなぁ。


「失礼しまーす」


 職員室に顔を出せば、エリートだなんだって偉そうぶってる根津がいた。見下した目を向けて顎をしゃくる根津にムッとする。エリートだって言うなら、何でこんなどこにでもあるような中学の教師してるんだ。もっとエリート校に行けば良かったじゃないか。


「なんだ、沢田じゃないか。成績の悪過ぎで誰かに呼ばれでもしたのか?」

「違いますっ! 風紀委員室がどこにあるのか教えてもらいたくて来ましたっ」


 とたん、根津の顔が真っ青になった。――そこまで怖がる必要ないと思うんだけどなぁ、雲雀さん優しかったし、大人の魅力っていうのかな……恰好良かったし。


「ど、どどど、どうして風紀委員室を探しているのだ?」

「用事があるからです、けど」

「風紀委員室は二階の応接室を使っている……ホレ、行くならさっさと行け!!」


 どもりまくりだった根津に追い払われるように職員室を出て、二階の応接室に向かう。一般教室とは離れた、理科実験室とか保健室がある東館を探せばすぐに見つかった。――応接室。

 つばを飲み込み、なんとはなしに髪を撫でつける。寝癖みたいに跳ねてるからみっともない気がした。腕を持ち上げ、ノックする。


「誰」

「さ、沢田綱吉ですっ!」


 扉の向こうから聞こえてきたのは数日前に聞いたばかりの通った声で、雲雀さんがいるとは聞いていたものの気が動転して声が裏返った。


「入りな」

「ふぁい!」


 変な返事をしちゃった……! 恥ずかしさで顔が真っ赤になる。扉を開けて入れば、革張りの椅子に座った雲雀さんがオレを迎える。恰好良いなぁ、オレも雲雀さんみたいに恰好良くなれたら良いのに。


「三日ぶりだね、遅刻もしていないみたいだし――ああ、教師たちに報告させてるから」


 誰が遅刻して、誰が休んだかを、と言った雲雀さんに憧れてしまう。オレと一二歳しか変わらないだろうに、大人顔負けの仕事ぶりの雲雀さん。根津や他の先生達なんかよりもよっぽど大人だよ!


「今日はどうしたの?」

「はい、えっと」


 オレは紙袋を差し出した。


「母さんがどら焼きを焼いて、あの――えっと、雲雀さんにもどうかなって」


 雲雀さんは立ちあがってオレの前に来ると、微笑んで紙袋を受け取ってくれた。それを左手に持ち替えると――

 ナデナデ

 雲雀さんに頭を撫でられた――!!


「美味しく頂くよ――君の母上によろしく言っておいてくれる?」

「は、はい!」


 そう言ってオレは応接室を出た。恥ずかしさだけじゃなく、頬が熱かった。


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