01



 気付いたら幽霊だった。マジでー。そしてつぶらな瞳のベイベーに見つめられていた。照れるぜボーヤ。


「愛い奴め、こうしてくれる」


 触れないけど、その林檎のホッペを突いて遊んだ。あの時はまさか、こんなことになるとは思いもしなかったんだよねぇ。









「ハァッハァッハァッ……」


 必死に走るこの体の名前は雲雀恭弥、四歳。華族の末であり伝統ある旧家の跡取り息子で、今までに百回を数える誘拐を経験しているボーイだ。本気で可哀想。

 そして何故私が『この体』と言ったかと言えば、今は私がこの体を動かしてるからさ。

 ついに三ケタの大台に乗った誘拐事件、そのほとんどは私の機転でどうにか難を逃れてきた。どうせ子供だと思って油断してた奴らの隙を突き逃亡、とか。必死に縄抜けの練習をした成果を見せてみたり、とか。金持ちの子供って大変ね! と走りながらそんなことを考えてた私に、内側の恭弥が弱々しく呟いた。


『僕……もうヤだ。「ひばりきょうや」なんて止める』

「ホワッ? じゃあどうするの、家出する?」

『ううん。××に「ひばりきょうや」をあげる』


 もし私の肉体がある時にそんなことを言われたら美味しく頂いてしまう可能性があるけど。今の状況――つまり霊体の私にあげるとは……まさか。


「考え直すんだ恭弥!」

『ヤだ。××にあげる』


 止める間もなく身体の優先権を譲られてしまった……。つまり私が恭弥になるわけで、原作を私がどうにかしなくちゃならなくて、プリティーTU☆NAと運命のエンカウント――


「では遠慮なく」


 待ってろプリティーTU☆NA! お姉さん――じゃなかった、お兄さんが愛でてあげるから!

 でも一番はやっぱり恭弥なんだよねゴメン、浮気な私を許して! 世界で一番大事なのは恭弥だけど、世界で一番愛しいのは君なんだ。







 その日、遂に百度目を迎えた誘拐事件からまたもや自力で逃れた恭弥お坊ちゃんは、妙に晴れ晴れとしていらっしゃった。(by草壁父)


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