8.5
目の前で壮年の男が半狂乱になっている。
「モリー、モリィィィィィ!! ジニーがボーイフレンドを?!」
誰かと言えばジニーの父親であるアーサー・ウィーズリーだ。今日は珍しく半休で、これ幸いと家族サービスに励むため早々に帰宅した――らしい。泣きながら早い帰宅の理由を叫んでるから。
「アーサー、いい加減泣き止んでちょうだい。シェーマス君はジニーの勉強を見てくれてるのよ」
――そう。この泣き叫ぶ壮年はオレとジニーが勉強会をしているところに姿現ししたのだ。きっと家族を驚かせたかったんだろうな。だが居間にはジニーとオレのみ、それもかなり親しそう。勘違いをしたのも当然だ。
「お邪魔しています、ホグワーツ二年のシェーマス・フィネガンと言います」
「――あー、取り乱してすまなかった。アーサー・ウィーズリーだ」
アーサーさんと一緒に、昼はモリーさんの作ったサンドイッチを頂いた。代わりと言ってはなんだが三時のおやつはオレとジニーで作った。ジニーが一月ぶりにオレの料理を食べたいと言ったからだ。そう言われると料理人冥利に尽きるな。
「シェーマスのチーズケーキ、本当に美味しいわね」
「このくらいならジニーでも作れる。スポンジケーキより簡単だぞ?」
「それはシェーマスが慣れてるからよ」
ジニーの賛辞に照れていたオレと、ケーキに夢中だったジニーはモリーさんとアーサーさんの話なんて聞いちゃいなかった。
「モリー、何故かな」
「何が?」
「あの二人はカップルというより友人、それも同性の友人に見えるんだが」
「偶然ね、私もよ」
どうやらジニーの輝ける明日は遠い。
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