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 ヒソカとの二人旅は意外と快適だった。私が過ごしやすいよう気を使ってくれているのが分るから自然とヒソカへの認識を改めることになる。もっとアレな人間だとばかり思っていたが、どうやら庇護しなければならない――と思ったんだろう私という存在――を守ろうと努力するだけの常識はあったようだ。泊るのはちゃんとしたホテルだし、真っ赤な果実狩りとか何とか称して襲われることもなく。


「ヒソカ、ヒソカねぇ……」


 年齢は七歳から前後するかもしれないから未入力にして、ヒソカという名前の男を検索してみた。だいたいには写真もあり、流し見ながらプリクラの顔を探す。――もう二百人ほど見たが、どれも合致しない。あと残るのは十数人ばかりだがその十数人にヒソカ少年がいるとはとても思えない――時代が違ったのだろうか? それともまだ生まれていないのか。


「どうしたんだい?」

「調べ物をしていた」

「そう☆――この画面を見るに、調べてるのは僕の名前みたいだけど☆」

「ヒソカと同じ名前の少年なんだが、一人もヒットしないんだ。時期がずれたか……すでに死んでいるとかでなければ良いのだが」


 後半は独り言として呟き、残りの十数人を見るため矢印をクリックする。どうしてか最後の十四人の一番上にヒソカが表示され、情報の開示に規制がかけられていると書かれていた。


「規制をかけているのか」

「ま、ね☆」


 ヒソカはクスクスと笑うと私に覆いかぶさるようにしてPCに向かうと、暗証番号なのだろう無意味な言葉の羅列を打ち込む。――無意味な?


「ちょっと、ヒソカ――」

「何だい?」


 何故暗証番号に私の名前が入っているんだ。日本と入っているんだ。私の住んでいた地名が、住所が、私の名字が。ブンブンと頭を振る私にヒソカが目を細める。


「まだ分らないかい?」

「だって――まさか、そんな」


 こんな変態に育っているだなんて思うわけがないだろう、という言葉は飲み込んだ。流石に私もそこまで空気を読まない人間ではない。呆然とした顔を晒していると、上からヒソカの顔が降りてきた。額に押し当てられた唇が冷たい。


「ずっと会いたかったんだ、由麻さん。やっと会えたね」


 泣きそうな声の、昔と同じ口調の言葉に、これが嘘ではないと分る。――いや、嘘ではないことはもうとっくに証明済みじゃないか。日本を、私の住所を知っている時点で。


「ヒ、ソカしょ、ねん……?」

「その呼び方、十三年ぶりだよ☆」


 懐かしいね☆ と微笑むヒソカはやはりヒソカにしか見えなくてヒソカ少年の面影など全くない。だがヒソカが取り出したキーホルダーは、表面に疵が増えたけど……確かに私が買って渡したもので。


「持っていてくれたのか」

「由麻がくれたものを捨てるわけないだろ☆」

「そ、そうか」


 私はキーホルダーを改造して首から下げている。何度かヒソカの目の前で服の下から出した覚えがある――どうしてか機嫌が良いようだったのは私がヒソカ少年を忘れていないと分ったからだろう。

 三年近く会いたいと思っていた相手で、それも探そうと思って電脳ページを開いた途端すぐ近くに見つかったのだ。これは運命と言って良いのではないだろうか? 私の未練がヒソカ少年だったからなのだと思っても良いのだろうか?


「――そういえば、ヒソカ少年」

「なんだい由麻☆」

「君は今、十三年と言わなかったか」

「言ったね」

「君の時計は十三年も過ぎていたのか」

「そうだよ」


 ヒソカ少年はもう少年というには成長しすぎた。もう青年だ。それに対して私は縮んで十三歳の姿――これでは前と逆だな。


「もうヒソカ少年とは呼べないな……ヒソカ青年と呼ぼうか」

「クックック……何だいそれは☆――前のまま呼んでくれよ☆」


 椅子に座ったままの私と、それに覆いかぶさるヒソカ少年。感動的な再会はできなかったが、まあ私とヒソカ少年だから良いのかもしれない。













 だってホラ――私たちは二人とも、変人だからな。


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