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 ああ、彼女だ、とボクの心が喚いた。いつもポケットの中で、落とさないようにバンジーガムを貼り付けているキーホルダー。その小さな写真の中で笑顔を浮かべ、Vサインしているのはこの彼女なんだって☆

 でももし彼女ならこの状態はおかしい。あの時の彼女は十五かそこらに見えたのに、今の彼女は十歳程度にしか見えない☆ もしかして彼女の子供だとか……? ボク以外の男が彼女を組み敷いて貫いたのかと思うと腹の底に重苦しい感情が煮え立つ。


「ユマって言うんだねぇ、キミ☆ キミのお母さんの名前はなんていうんだい? もしかして由麻っていうんじゃない?」


 もしユマが彼女の子供だというなら、由麻を通して彼女に会えるかもしれない☆ そんなことを思いながら訊けば違うという答え。でも――ユマ、いいや、由麻。この世界に市川家はないよ?


「そう☆」


 ああ、心が歓声を上げてる☆ 由麻がどうしてここにいるのかとか、由麻がどうして縮んでいるのかとかは関係ない――ただ『来てくれた』というそれだけで心が躍る。


「クロロ、この男は今日から旅団に入るのか」

「そうだ。四番に入ることになる」

「そうか」


 ボクの横をすり抜け、由麻はクロロの前まで行ってしまう。せっかく会えたのにつれないね☆ でも分らないのは仕方ないかもしれない☆ 僕の姿は昔とは全然違うから☆


「ユマ――許せ」

「始めから怒ってなどいない、クロロ」


 団員だと言って紹介されたのは一部のメンバーだけで、でもここに来たということは旅団の関係者ということになる。なら欠員が出るまで待っていた、とか? それならちょっと申し訳ないことをしたかもしれないね☆


「そうだ。少し旅に出ようと思っているのだが、ストックはどうなっている?」


 由麻はクロロの苦い表情を見てか話題を変えた。わざとらしい話題変換にクロロが一瞬すまなそうに顔をしかめ、すぐに常の表情に戻してボクを見る。何かボクに関わることなのかな☆


「問題ないな。一年は保たんだろうが、少なくとも半年から一年ほどを考えていれば良い」


 クロロはボクから視線を外すとそう言った。何か由麻がいないとどうにもならないものがあるのかもしれないね。


「数ヵ月後には一度戻って来るつもりだが、しばらく各地を回る。ノブナガには後で連絡しておいてくれると嬉しい」

「自分でしないのか?」

「何故早く言わなかったのかと怒鳴られるから、ほとぼりが冷めた頃電話するつもりでいる」

「そうか」


 由麻は一人旅に出るつもりみたいだけど、こんな幼い子が一人でいたら誘拐してくださいって札を付けているようなものだよ☆ 本人は分っていないみたいだけど、クロロも心配そうに顔をしかめてるしね☆

 シャルナークとフェイタンに挨拶して出て行こうとした由麻の手を掴んだ。なのにするりと手の中から何かが抜けていく感覚がして、由麻の腕を掴んでいるはずなのに手の中に喪失感が残ってる。目の前にはもう一人の由麻――念能力者だとは思ってたけど、まさかボクと同じ変化系とは……☆ それとも特質系かな? どっちでも良いけどね☆


「ねえ☆ ボクと一緒にいかないかい?」

「――は?」

「ボクも旅行中なんだ☆ キミよりも色々な国での経験があるつもりだけど☆」


 旅をしてたのは本当☆ でもまさかそれが役立つとは思ってなかったよ☆

 抱きしめて久しぶりって言って、ボクはキミがヒソカ少年と呼んでくれたあのヒソカなんだと伝えられたらどれだけ良いだろう。この手を濡らす水を舐めたいくらい好きなんだと、愛してるんだと言えたらどれだけ良いだろう☆


「そちらの利点は何か分らないからなんとも言えない」


 由麻は疑り深そうにボクを見上げる。そんな目で見れらると泣きたくなるよ、由麻。


「利点? 話し相手がいると楽しいだろ☆」


 本当なら話し相手なんていてもいなくてもどうでも良いんだ。ただキミが一緒にいるだけで嬉しくなれるんだから☆ でも、キミはそう言わないと一緒にいてくれないだろ?


「ユマ、一緒に行け」

「クロロ、それは命令か?」

「そうだ」


 クロロが助け舟を出したことに驚いてチラリと見やれば、一人旅をさせる不安がボクとの二人旅に対する不安に勝ったらしい☆


「楽しみだね☆」

「そうか」


 ……つれないね☆ でも、きっとキミを振り返らせてみせるよ☆





 だってそれが、ボクの長年の望みだったから。


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