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 アジトに着けば、念能力者の、それも熟練した者でも気が付かないほどの気配が複数あった。そういえば今日誰が来ているのか聞くのを忘れていた。


「私だ」


 詐欺みたいにそう言って気配のある部屋――扉もなければ調度品もない――に入れば、見慣れない青い髪の男が私に背を向け立っていた。あれはヒソカだろう。何かクロロと話しているようだが一体何のことだか。


「何で来たね」

「興味があったんだ」

「久しぶりだねー、ユマ。何か月ぶり?」

「およそ半年ぶりだと思う」


 いたのはクロロ、フェイタン、シャルナーク。男――ヒソカが、シャルナークの言葉に目に見えて反応した。気持ち悪いほどの速さで私を振り返り、目を見開いて呆然と口を半開きにしている。化粧を取れば美男だろうにピエロのペイントが残念さを醸し出している。勿体ないことだ。


「ゆ、ま……?」

「なんだ、知り合いなのか」


 クロロが私とヒソカを見比べる。どちら一方だけに聞いているわけではないようだ。私はヒソカの反応に内心首を傾げながら頭を振った。


「いや、こんな男にあった覚えはない。私が覚えていないだけでどこかで会ったのかもしれないが」


 ヒソカ少年はどちらかと言えば中性的で、実は女の子なんじゃないかと思うほどの容姿をしていた。だが目の前のヒソカは男らしい造作でヒソカ少年との共通点を見つけるのは難しい。それにあの子は変態じゃなかった。


「ん――☆ ボクの勘違いだったみたいだ☆」

「そうか」


 ヒソカは私を見ながら目を細め、瞳の奥に何かをきらめかせた。だがすぐにそれを消してしまうと私ににっこりと笑んだ。


「ユマって言うんだねぇ、キミ☆ キミのお母さんの名前はなんていうんだい? もしかして由麻っていうんじゃない?」

「変なことを聞く。市川家でもあるまいし、私の家は名前を継ぐような家系ではないが」


 団十郎とか。ついでに私は能より歌舞伎の方が好きだ。能はどうしても眠くなるから最後まで見ていられない。

 ヒソカは内心の分らない笑みを浮かべている。この男は一体何を言いたいのだか――あの家族はもう思い出すのも面倒な存在でしかない。今の私の家族はノブナガで、幻影旅団だ。


「そう☆」


 気味の悪い男だ。何を聞きたかったのかさっぱり分らないが、とりあえず変な男だということだけは確かだ。私はスイと横に足を引いてヒソカの視線を避け、クロロの元へ向かう。原作軸まであと数年――ヒソカ少年が原作軸から来たとして、そろそろ電脳ページに名前が乗ってもおかしくないだろう頃だ。しばらくヒソカ少年を探す旅に出るのも良いかもしれない。まだ原作まで数年あるのだから。


「クロロ、この男は今日から旅団に入るのか」

「そうだ。四番に入ることになる」

「そうか」


 私は番号をもらえない。私の血を失うのは旅団にとって大きなマイナスであり、欠けても補充できるものではない。だから賞金首ハンターなどに狙われる脚にはなれない。目の前に仲間の証がぶら下がっていても手にすることは不可能だ。――『四番』を持って行かれた事実に悔しさとやるせなさが募る。私の胃のちょうど上にある蜘蛛の刺青には番号はなく、これではただのクモでしかない。


「ユマ――許せ」

「始めから怒ってなどいない、クロロ」


 ただ、守られているしかないことが苦しいだけで。


「そうだ。少し旅に出ようと思っているのだが、ストックはどうなっている?」


 クロロがヒソカをちらりと見やる。話すべきか考えたんだろう。だがストックと言ったところで何のストックか分らなければ意味はない――クロロは問題ないと頷いた。


「数ヵ月後には一度戻って来るつもりだが、しばらく各地を回る。ノブナガには後で連絡しておいてくれると嬉しい」

「自分でしないのか?」

「何故早く言わなかったのかと怒鳴られるから、ほとぼりが冷めた頃電話するつもりでいる」

「そうか」


 旅費などについては私も旅団の端くれ、通帳には桁を数えるのも面倒なほどの金額が入っている。銀行に入れば下に置かないもてなしを受けるほどだ。


「ならシャルナーク、フェイタン。また」


 行ってらっしゃいと手を振るシャルナークにおざなりな返事をするフェイタン、クロロにじゃあと手を上げて出ようとすればヒソカに手を掴まれた。一瞬で『私と私(クッキーカッター)』で分身と入れ替わり分身を溶かして逃げる。


「ねえ☆ ボクと一緒に行かないかい?」

「――は?」

「ボクも旅行中なんだ☆ キミよりも色々な国での経験があるつもりだけど☆」


 水と化して床を濡らした分身を面白そうに眺めたヒソカはそう私を誘った。ついでに私の念能力はどうも血を念頭に置くせいか、解除すると水が出る。純水だから飲み水に便利だ。


「そちらの利点は何か分らないからなんとも言えない」

「利点? 話し相手がいると楽しいだろ☆」

「ユマ、一緒に行け」

「クロロ、それは命令か?」

「そうだ」


 クロロのGOサインが出たのもあり、私はヒソカと一緒に旅に出ることになった。全く面倒な……今さら純潔がどうのなんのと言うつもりはないがこの変態と二人旅と思うと気が重い。


「楽しみだね☆」

「そうか」


 私は楽しみじゃないが。


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