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 大阪へ向かう海路では、毛利家側の人間は松山とその他数人のみで、あとは全員大阪側から遣わされた人間だった。豊臣はどうやらオレが安芸の富国政策のブレーンだと知っていたらしい、ものものしいほどの人員にオレは顔が引きつるのが分った。


「僕がちゃんと秀吉の元まで案内するから安心してよ。豊民賢帝は責任を持って豊臣が世話する」


 豊民賢帝って何だろう、と松山に聞いたらオレの二つ名だと言われた。なにそのこっぱずかしい名前。織田の魔王、豊臣の覇王、安芸の帝王ですか。父上と話している人物をちらりと見上げれば白髪に仮面の美青年……はいどう見ても半兵衛さんですねー!


「当然のことよ……少輔太郎に怪我ひとつ負わせてみよ、毛利は決して豊臣を許しはせぬ」


 オレが安芸に帰る前に戦争おっ始めたら意味ないよね、と思うんだけどどうですか父上。






 そしてオレは松山やその他の皆さんと一緒に大海原へ出て――嵐に遭って船が大破した。長年を海で過ごす海の男でも予見できなかった天災だったからオレたちに嵐が来るなんて分るはずもなく、なすすべもなく荒れ狂う海に投げ出された。


「松山……? 松山?」


 ザザーン、ザザーン、と爽やかな波の音が響き渡る。オレが気が付いたとき浜にはオレ一人で、漂着物も全くなかった。海水を含んだ着物が重いがそんなことは今はどうでも良い、周囲を見回して誰かいないのか探す。――やっぱり誰もいない。そして船のものだろう漂着物もない。オレ一人でここに来たのは分ったけど、ここは一体どこなんだか。大阪ならそのまま保護してもらえばなんとかなるだろうし、中国のどこかなら一度厳島に戻るのも良い。

 松山は忍だ、名前を呼んでたら来るかもしれない、なんて思って何度も松山の名前を呼ぶけど来る様子がない。どうしたもんか……。ため息を一つ吐いて着物を脱いだ。折りたたんで絞れば海水が落ちる。さて、晴れて(?)ふんどし一丁となったわけだけど、どうしたものか。オレの上着には一文字三星紋がはっきりと縫いとられてるから身分証明には困らないけど、ここがどこの土地か分らなきゃ誘拐される可能性がある。オレなんかが父上への抑止力になるわけなんてないんだけどね。一応長男だし。

 とりあえず歩こう。ここにじっと留まってても何の解決にもならない。そう思って歩きだしたら、オレ自慢の聴力がどこぞからシクシクという泣き声を拾った。子供の声だな。女の人の声じゃあない、男の子の声だ。声に導かれて岩場の影へ向かう。わらじも失くしているから裸足だけど別に問題ない。


「ふっ……うう」


 岩場に隠れて泣いてたのは銀髪に眼帯をした少年で、長い睫毛とぷるんとした桃色の唇から女の子にしか見えないけどゲーム通りなら間違いなく男であるはずの彼だった。長曾我部家の嫡子、長曾我部元親――の元服前だから弥三郎。年齢は見たところ十二かそこらだから元服してても良いだろう年頃だ。

 ……うん、おかしくないか? 父上と元親は年齢が近い腐れ縁のはず。何で元親がこんなに小さいんだ? 元親が縮んだ……わけないか。

 オレが、時間トリップしたんだ。それに気付いてしばらくの間呆けてしまった。ふんどし一丁で何してるんだろう、オレは。


「君」

「うーっ……ふえ?」


 自分の半分の年齢だろう子供が冷静に声をかけてきたことに驚いたのか、元親、じゃなかった弥三郎は目を見開いた。衝撃でぽろりと涙がこぼれる。


「そんなに泣いてたら目が溶けてしまう。何で泣いてるのかは知らないけど泣きやんで」

「あ……うん」


 まさか年下にそんなことを言われるとは思いもよるまい。オレだって自分のことがなかったら絶対ビビってる。傍目には気色悪い餓鬼だよなぁ。


「君、誰?」

「あー……えっと、オレは太郎。君は?」

「ボクは弥三郎」


 ボクか。似合わないわけじゃないけど何か狙ってるような気がする。気のせいだろうか。


「太郎はどうしてこんなところにいるの? 着物も濡れてるみたいだし……おいでよ、湯浴みしよ?」


 そう言って手をひかれて連れて行かれ、顔立ちが農民らしくないとのことでオレは保護された。どこの武家の子かは分らないがきっと親も嘆いていることだろう、探してやろうと言われたが――当然ながら見つからなかった。


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