08



 これ以上時間が過ぎれば、オレを捨てたやつらは寿命で死んでいく。十八を少し過ぎた頃、オレは心を決めた。甲賀を滅ぼすべき時が来たと。風魔手裏剣は使えない――これでは風魔の人間が殺しに来たと大々的に宣伝しているようなものだ。だから使えるのは忍刀とクナイのみ。それでも殺し尽せる自信はあるが。


「どうした猿飛――」

「気でも狂うたか、さす――」

「物狂いじゃ、さすけが狂っ――」

「止めよ佐助、やめ――」


 佐助、佐助、佐助。この里で猿飛として認められたのは佐助だけ。この里にオレはイラナイ。オレにこの里はイラナイ。柿色に染めた髪と地面が吸っていく赤とが対比する。返り血なんて浴びない――だって汚いから。

 そう言えばジジイ共の予言は当たったな。血色の髪の子供はまさに血を求める魔物と化したぞ。獣に食われよと貴様等が捨てた餓鬼は今、獣のように貴様等の喉笛を噛み千切る。嘆くが良い、苦しむが良い、それがオレの喜びで、悦びなんだから。


「ハハッ、ハハハッ! 皆死ねば良いのさ」


 佐助とそっくりなこの声も、佐助とそっくりなこの容姿も、厭わしかったこれが今は嬉しくて仕方ない。喜べ手前等、手前等のご自慢の『猿飛佐助』が手前等を殺す様を見てやがれ。冥府への道を呪詛と共に下れ。黄泉比良坂を這いずって下りやがれ。


「あーあ、もう死んじゃったの?」


 死屍累々たる村の様子に、物足りなさを感じる。もっと強い奴はいないのか、期待外れだ。もっと強いと思ってたのに弱い奴らばかりで拍子抜けする。この程度だったのか、オレが長年復讐を望んでいた里は。

 横に放り投げておいた、気を失っている幼児を抱える。産まれて数ヶ月目らしい乳児から二歳くらいの子の合わせて三人。物心ついた餓鬼は煩いばかりだが、まだ記憶もあやふやな幼児なら里に引き取る位の優しさはある。始めは殺そうかとも考えたが――血統を守る風魔の里では血の劣化が進んでて少子化も甚だしく、外の血を早急に入れる必要があるから持ち帰ることにした。――オレが誰かと餓鬼を作れば良いって話もあるけど、元就に仕えてるとどうしても里帰りとかできないし。無理だ。


「貴様、猿飛?!」

「お、かずがじゃん。今オレ様急いでんの、じゃね」

「お、い! 待て、その子供は――――!!」


 偶然か否か、抜け忍であるはずのかすがが来るとは思いもしなかったけど――逆に良いかもね。同じ里のもの同士殺し合えば良いよ。





 風間谷に寄って子供たちを預ければ、外のしきたりを持ちこまれることなく新しい血を入れることができるからか先代も他の皆も喜んでくれた。どこの馬の骨ってわけじゃない、ちゃんと忍として歴史のある里の子供だから将来も楽しみだし。とりあえずオレの養子ってことにして養育を頼んだ。


「オレみたいになるんだよ」


 オレみたいに強くなって、風魔のために働き風魔のために死ね。


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