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 バター作りは根気のいる作業だと聞いたことがあったんだけど。

 松山に「とりあえず中で個体ができるまで振って」と頼んでみたら、恐るべき速さでじゃかじゃかと振ってくれた。革袋の中から個体の何かがベシャベシャ言う音が聞こえるようになって手を止めてもらえば、黄色っぽい物体――バターが出来てた。これが減塩バター――というより無塩バター。


「これがばたーというものなのですね」

「うん。残った牛の乳もさっぱりした味で美味しいと思うよ」


 脂肪分が抜けた、つまりは低脂肪乳みたいなものだから。椀に注いで飲んでみれば懐かしい味がした。


「このバターは油代わりになるし料理の材料にもなるから使い道は広いよ。たとえば炒め物をする時に使えば特徴的な風味が付いて香ばしくなる」

「ほう……」


 今度ホットケーキを焼いてみようかなぁ。プリンとか作り方分らないお菓子はどうあがいても無理だけど、ホットケーキなら卵と牛乳と小麦粉、バター、砂糖は高いから楓糖を使えば作れるはず。バターを見ながら内心ほくそ笑んだ。


「これの作り方を毛利家が独占しておけば一定以上の財源が確保できる。保存が利かないし外へ持ち出すのは難しいから安芸以外でこの味を楽しむことはできない……。安芸に来る旅行者が増えてお金を落として行って、更に安芸が豊かになる――」


 よし、国力アップ作戦に死角なしだね! 僕は一人でうんうんと頷いてたんだけど、つい、松山がいることを忘れてた。


「少輔太郎様……?」

「えっ、あっ!」


 あの大きな独り言を聞かれてたとは……! ていうか松山の存在が薄すぎるからつい!


「少輔太郎様は安芸がとても大切でいらっしゃるのですね。元就さまも鼻が高くいらっしゃるでしょう」


 微笑ましいものを見た顔の松山に言われ、顔がボボボッと熱くなった。


「う、うん……好きだよ。でも――」


 父上は苦手だけどね! 昔は、子供はすぐに大きくなっちゃうんだよ、可愛がるのは今だよ! と思って何度もたづに頼んで夕餉を一緒にしたいって言ってきた。来てくれたことなんて数えるほどだったけどね。今は父上がオレのことあんまり好きじゃないって知ってるから――あんまり会おうとは思えないや。仕事を任せてくれはするけど父子の愛情なんてほとんどないし。戦国時代ってこんなものなのかなぁ。


「父上はきっと、オレのことなんていらないよ」


 つい最近、父上は美伊殿を正妻に迎えた。本来ならあの人が三本の矢の兄弟三人を産むはずで。オレは――史実通り、十三歳あたりで人質に出されるんだろうな。


「そんなことはございません! 元就様は少輔太郎様を確かに愛しておられます!」

「――うん」


 オレ、廃嫡されるのかなぁ……。まあ、望みどおりだから良いんだけどね! でも今まで頑張った努力が全て報われないかもしれないって思うと空しさがこみ上げるって言うの? オレの計画邪魔しやがって弟なんて嫌いだばーかばーか! と思えるって言うか。


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