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 何かしら道具が必要なことをしたくても、ただの餓鬼であるオレには道具をそろえてもらえる権力もないし実績もない。だからオレが何の道具もなしに出来ることと言えば楓糖作りで、こういう積み重ねがあってやっと色々と使わせてもらえることになった。

 ――そして今オレは、城下に出て農作業の効率化を推進してる。国力を上げようプロジェクト(命名・オレ)の第一歩として色々と提案したり実行したり、まず始めに区画整理から初めて升の一定化、雑草を抜くんじゃなくて鴨を放つ、ゴマ農家の育成、海に面する国ってことを利用した外国から唐辛子とlove appleつまりトマトの輸入。

 区画整理は税を取る時の判断基準、マスの統一は不平等の解消。鴨を放つのは土壌が痩せるのを防ぎ、ゴマはこの時代高級品で簡単には手に入らないから特産品とすれば国が潤う。唐辛子は保存料にも使えるし、トマトはこの時代ヨーロッパでは毒のある食べ物だと信じられていた上、劇場でへたな役者に投げつけるものでしかなかったから安い。トマトケチャップを作ったらことのほか好評だったし。





 気付けば三歳だったオレももう六歳。たった三年の間にオレ頑張ったよ……父上はオレにまかせたと言わんばかりに農業関係を全部投げ出して――いや、押し付けてくれたし、最近オレの年齢忘れてんじゃないかって思うね。オレまだ六歳だよ、それも数え年で。


「そうだよ、何で忘れてたんだ」


 牛の乳シェイクしたらバターができるんだって田舎のばあちゃんが言ってた。日本のスーパーで出回ってる牛乳は脂肪分を抜いたりしてだいぶん薄くなってるから、必死に振ってもバターはできない。でもこの時代なら搾りたての乳が手に入る!


「松山」


 オレ付きの忍者さんを呼んだら、膝を突いた状態ですぐに現れる。零歳児の時に頑張って残した感度の良い耳はどんな小さな音も拾ってくれて、実を言うと忍者さんの息使いも聞こえる。だからオレの前に死角なし!――とは言えないのが悲しいところだ。この幼児の鈍い体じゃ迫って来るクナイとか忍刀とか避けるのなんて無理。だからこそ護衛が付いてるんだけどね!


「牛の乳を手に入れることはできる? なるべく新鮮なものが良いんだけど」

「牛の乳ですか」

「うん。牛の乳をね、料理に使おうと思って」

「牛の乳――まさか、あのようなものを?」


 松山が眉間にしわを寄せた。牛乳を飲むことに戸惑いを感じてるみたいだ。でも元々日本って牛乳飲んでたんだよな。


「かつて日ノ本でも牛の乳から作った料理を食べていたけど、仏教の伝来によってその文化は失われてしまった。聖武天皇とその妻光明子は乳製品である蘇を食べながら酒を傾けていたという記録もあるし」


 牛乳自体も消化を助ける薬として食事の毎に飲まれていたと言うし。


「牛の乳を飲むことは罪ではないよ、松山」

「――はっ」


 納得したのか頷いてくれた松山に微笑めば、松山がにへらっと笑った気がした。一瞬で元に戻ったけど、あれは間違いない。笑う要素なんてあったかな、ない――と思うんだけどな。


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