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 本当に小さな子供なら、アリの行列とかを見て一日過ごせちゃうんだろうけど――中身がオレだから。そんな純粋なこと出来ないよ! ていうか飽きるから。

 庭を駆け回るのもどうかなーと思っちゃうオレは、他に暇つぶしの方法を考えつくことができず勉強を希望した。師匠を付けてください父上! と、たづに頼んでもらったのだ。


「では、かなを覚えることから始めましょうか」


 父上が付けてくれたのは高僧と名高い(らしい)人で、一宗といった。マルコメ味噌な頭で、立派な袈裟を着てるからどこから見てもお坊さん――この時代ってお坊さんが家庭教師になってたんだろうか。唐からの知識とかに精通してたのはやっぱり専門職である僧侶だったから、かなぁ。


「では私の書くのを真似て書いてくださいね」

「はい、いっしゅーどの」


 滑舌悪いのは仕方ないって諦めたけど、そろそろ滑らかに話したいもんだよ……。


「とりなくこゑす、ゆめさませ」


 てっきりいろはにほへとで覚えると思ってたオレはびっくりした。全然違う! 目新しいその手習いにワクワクしながら筆を握り――駄目だしが出た。曰く、手を机に突いちゃいけません。浮かせて書けとのこと……無理だってそんなの。一宗殿が書くのを見れば、手首は机に突かず浮いてる。そういやそうだった! 小学校の時の習字の時間、先生が口を酸っぱくして腕を上げろって言ってた! 皆で無理って叫んだけど。


「良いですか、少輔太郎様。いつでも机があるわけではありません、たとえば戦場では机を用意することなど時間と労力の無駄です。左手で紙を持ち右手で書く、そういうことがままあります」


 だから早く慣れろと言われても。柔和な顔に似合わず厳しい一宗殿に言われるがまま涙をこらえて三時間に及ぶ手習いを終えれば、やっと始めに見た優しい笑顔が向けられた。








「少輔太郎様は覚えが早くておられますから、五日もせずに手習いの基本は終えられるでしょう」


 嘘だ! 警策(座禅の時に集中の乱れた者を殴る棒)で何度も叩いてきたくせに! このままオレ坊さんになるのかと思ったぞ?!

 恨みがましく警策を睨み(だって一宗殿を睨んだら何が返って来るか……)、はいと言いながらコクリと頷いておいた。返事しなかったら「返事がないわ――!! かぁぁぁぁぁ――っ!!」とか言われそうだし。

 女中さんの案内で出てった一宗殿を見送って、オレは一宗殿の書いた見本とオレのいびつな文字を見比べた。……練習しよ。いくら昔の文字がオレにとってはミミズにしか見えない物だとしても、文章の流麗さは分るから。ミミズが毒でも飲んだのかもんどり打ったようなオレの字を見ると――自然とため息が漏れた。


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