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 オレが生まれてから一年半くらい経ちました、少輔太郎です。数え年ですでに二歳ということになってるんですがオレはどうしたら良いの。ついでにここは荒廃した未来ではなく、これからな過去だったようです。親父殿の名前が毛利元就だと知った時は味噌汁を噴きました。ていうか一歳児に味噌汁を与えるな。それに味噌汁が生まれたのって江戸時代だったと思うんだけど違うの?


「太郎様、太郎様」

「はい」


 赤ん坊の口蓋は、産まれた時はオラウータンや他の類人猿と同じく潰れた状態なんだとか。それが三ヶ月目くらいで急激に大人のそれと同じに成長するから人語を話せるようになるんだとか。――と、妹が生まれた時に買った本に書いてあった。だから赤ん坊がしゃべる某家庭教師な暗殺者はおかしい。産まれて一年以内であんなに話せるようになるもんか。今のオレだって――オレだって頻繁に「はい」が「あい」になるんだぞ!


「お昼寝なさいませんか」


 用意ができております、というたづ――オレの乳母や――に言われるまま潜り込む。この時代掛け布団はなくて、昼に着ていた服を掛けて寝る。ついでに敷布団はない。江戸時代でも三枚で百両という高価なものとされていたのが、どうして戦国時代に気軽に手に入るだろう。オレが寝てるのは畳の上だ。


「たじゅ」


 うわああああああ顔を覆って悶絶したい! 「たじゅ」!「だじゅ」! 舌足らずなんて嫌いだ!


「どうなさいましたか、太郎様?」

「ちぃうえは今晩一緒にゆうげとりゃーの?」


 もう諦めた方が良いのかな……いや、オレは諦めない。目指せ素晴らしい滑舌。日々まい進してこそ明るい未来が拓けるのだ!


「殿ですか? 今晩はどうでしょうね……ご政務の進み具合ですし」

「一緒がいー」


 何といっても今生の父上様だ。親孝行したいじゃないか。元就さん、子供の可愛い時期はいつの間にか過ぎてくんだよ、オレの妹みたいに。だから今のうちに見貯めておかないと後悔するよ! オレみたいに!


「ではそのように申し上げてまいります故、太郎様はお休みなさいませ」

「んっ」


 一つ頷いて目を閉じる。子供は元気で走り回ってるように見えるが、それは疲労を感じる神経がまだ未熟だからじゃないかって思えてきた。だって一度こうして寝転がれば凄く眠いんだ。考え事をする間もなく落ちていく瞼に逆らえず、オレはいつの間にか眠った。





 夢だったのか違うのか。オレの髪を優しく撫でる、たづとは違う手が気持ち良くてすり寄れば、ふと笑う気配がして頬をプニッと突かれた。少しカサカサの肌触りに驚いたようでびくっと指が引き、また頬を突き始める。


「はよう育て、少輔太郎」


 そんな声を聞いた気がした。


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