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 生理が来なくなって、これはもしや妊娠では――と思って自分のお腹を凝しながら見てみたら新しい命が宿ってた。まさか結婚初夜のアレで出来るとは思わなかったよ……。

 今のところ体調の変化もないし味覚の変化もないし、出産まで平和に過ぎてくれたら良いなーと思ってた――んだけど。

 二週間ぶりに里に帰ってきた旦那様に一番に報告すれば、ダッと踝を返してそのまま転んだ。小太郎って忍者だよね? それも伝説の忍って言われる国一番の忍なんだよね? それが転ぶってことはかなり動転してるってことだとは思うんだけど、なんだかみっともなかったと言うか、何て言うか。


「御遣い様がご懐妊?!」

「宴じゃー!」

「酒を持てェ!」

「じいじ、妊婦さんにお酒飲ませちゃ駄目でしょ!」

「良かったですね」









 ――ということがあったのが、数年前。小太郎は見た目に反してエロがっぱ、じゃなかった、子孫を残すという本能が強かったのか、年子で三人という強行軍を走らせた。産むのは私なんだぞ、毎回痛い思いしてるの私なんだから! と流石に三人目が発覚した時に言ったら、土下座して謝られた。そこまで求めてないよ、私。


「母上、父上がお帰りになられましたー!」


 一番上の子がドタバタと廊下を走り、お義父さん――先代に忍として情けないって怒られた。普段は皆も褒めるくらい凄い子なんだけど、小太郎のことになると全然修行の成果が発揮されなくてみんな苦笑いする。お義父さんは怒るけどね。


「あれ?! 父上もうこっち来てたの?!」

「そりゃあねぇ……」


 きっとこの子――長男の富太郎が見たのは空を飛ぶ小太郎の姿。そりゃあ小太郎が着く方が早い。小太郎は嬉しそうに口元を緩ませてるけど、この微妙な変化が分るのは果たして何人いるんだか。


「とみは遅いのよ、父上はもうとっくに帰ってらしたんだから」


 そう言って富太郎をこき下ろすのは二人目の子で長女の楓。小さい子供に良くあるように男の子に比べて心身の成長が早くて、年子の富太郎よりも力も頭もある。二人とも婆娑羅者でそれぞれ火と風だから良い相棒になるんじゃないかなーと思ってるんだけど今のところ無理そう。仲間って言うよりもライバルだからなぁ。


「父上、抱っこしてください」


 中で一番落ち着いてるのが次男の麻次郎。この子は婆娑羅者じゃないけど、代わりに――何でかな、念の才能を持ってた。両腕を上げて小太郎に言ってる姿を見るとほのぼのするよ。


「ずるいわよあさ! 父上! 私も抱っこ!」

「僕もー!」


 まだ麻次郎なんて数えで三歳、楓は四歳、富太郎は六歳のはずなんだけど、なんでこんなに皆成長が早いんだろ? 現代で言ったらまだ麻次郎は二歳なんだよね……こんなに冷静な二歳児がいたら怖いよ。それに丁寧語を操れるだなんて、麻ちゃん、君はイクラちゃんか。

 でも。小太郎が三人を皆持ち上げてるのを見てるとそんなことなんて気にならなくなってくる。ちょっと成長が早いのがなんだ、どうでも良いじゃない。私はくすりと笑った。




 父上が好きです、でも母上はもっともっと好きです!


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