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「達太郎は将来小太郎になるの?」


 螢様はきょとりと首を傾げながらお尋ねになった。頷けば変な顔をして口を噤み、何か考え込んで布団を睨んでおられる。一体どうなさったのかと思いつつ見ていれば、おれを思い出したように振り返り言われた。


「じゃあ達太郎が風魔の最後の長なんだね」


 さらりと言われた言葉に瞠目する。おれが最後の長ということは、風魔の里がおれの代で滅びるということ。代々の長が、風魔の民が守ってきたこの里を守れないということ。――だがおれはそれに恐怖を覚えたのではない。螢様が当然のように未来を知っていらっしゃることに、畏れを抱いたのだ。もし俺の代で風魔が滅びることが天命というのならば、おれはどうすれば良いのだろうか。

 口を滑らせたと螢様は口を手で押さえ、必死の面持ちで言われた。


「達太郎、今の言葉は忘れて!」


 唯人であるおれごときが知って良いことではなかったのだろう、螢様は今にも泣きそうに目を潤ませている。一瞬躊躇してから頷けば安堵のため息を吐かれた。――しかし、小太郎様の耳に入れるべきだろう。忘れよと言われたが忘れられるものじゃない。



 それから皿を下げ螢様の部屋の天井に潜む。螢様は項垂れ胸元を握り締め、震える声で呟いている。


「ここはバサラなんだから、滅びるって決まってるわけじゃない……よね? 徳川が天下を取らなかったら、望みはあるよね?」


 その一人事から推察するに、徳川が天下を取った場合――風魔の里は滅ぶようだ。なら、他の武将に天下を取らせれば良い。たとえば奥州探題伊達、甲斐の虎武田、越後の龍上杉――北方勢ならばこの三つか。どれも忍を抱えているから、風魔を利用はすれど滅ぼしはしない、だろう。中部の今川、関西の織田、毛利、長曾我部、九州の島津。めきめきと目覚ましい発展を遂げているこれらのどこかが天下を取ることは想像に難くない。他の戦国武将もいるにはいるが、そのうちどこかに吸収され下るか潰えるかしていくことだろう。つまりこれらのどこかに入り、さっさと徳川を消してしまうに限るということだ。

 天下を取る家に恩を売っておけば里が滅びる危険も減り、螢様も心安らかに過ごせることだろう。もし戦火がこの里まで伸びなどすれば――螢様はきっと仙界に帰られてしまう。


「風魔は――私が、守る」


 そう考えていると、螢様の決意が聞こえた。ああ、やはり螢様はおれたち風魔を守るため仙界より遣わされた仙女様なのだ。おれは一度目を閉じ、開いた。螢様がなさろうとすることを、おれは必ず助けよう。螢様の歩む道を、ただ真っ直ぐに。


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