自炊を始めた。日本の調味料を手に入れるつてがないからどうしても洋風のものしか作れないが、出される食事の何倍もましだ。

 だいたいイギリスで食って美味いのはエスニックだけだろう。大陸の国々は「美食こそが贅沢」と料理の味を磨いたが、ドーバー海峡は狭いくせに深かったようだ、肉眼で対岸が見える距離のブリテン島は大食を最高の贅沢とした。金のある奴は毎週一頭の牛を潰し、それを七日かけて食べていたとか。潰したその日は良い焼け具合だろう肉も、温め直す度にパサつき黒焦げ……味覚があやしくなるのも当然といえる。ソーセージとジャガイモ料理のオンパレードかもしれんが、まだドイツ料理のがマシだ。


「だが、まあ……これは喜ぶべきだろうな」


 今、オレの目の前にはカレールゥが数種とスパイスが並んでいる。米は残念ながらジャポニカではなくインディゴだが、カレーだから気にならん。さて、作ろうか!








「ねえシェーマス、貴方って魔法使いは魔法使いでも、キッチンのマジシャンね」


 出来たカレーをジニーにも振る舞い二人で満腹になった頃、料理中の貴方は神がかってるわとため息と共に言われた。


「キッチンのマジシャンか……そう言ってもらえると嬉しいな」


 つい微笑んで言えば、ジニーは顔を髪の色と同じくらい赤くしてしどろもどろに言う。何か羞恥を感じることでもあるのだろうか。


「私ね、シェーマスの作るご飯が好きよ、ママのよりもね? 毎日食べられたら良いなって思うくらい。――ね、シェーマス」


 ずっと私に作ってくれる? と言われた。なんだ、食い意地が張ってると思われたくなかったのか? 美味い飯を食いたいと思うのは別に恥ずかしいことではないだろうに……やはり女の子だからだろうか。元々はオレも女だったが、そんな甘酸っぱい思いとは無縁だったからな、そうなのかもしれん。


「ジニーが言えばいつでも作ろう」


 そう言って頭を撫でれば、ジニーは机に突っ伏して馬鹿だなんだとオレを罵り始めた。

 一体どうしたというんだ……。


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