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 何もすることがないし、達太郎にずっと付いててもらうわけにもいかないから、一人で念の修行をすることにした。たしかオーラを移動させるのが流で、流を使って体を強化するのが硬で、流を目にしたら凝になる――んだったっけ。体の硬度上げても私自身じゃ分りようもないから、凝をすることにした。目に集中!うーんうーんと唸りながらもようやっと凝に成功したと思ったら。


「なにこれ……」


 布団から宙に吹き出しが出てて、何年前に作られたものだとか作った人は誰だとか、そんな情報が書かれてた。これってこの布団のスペックってことだよね?周りを見て見れば畳にも吹き出しがあったし障子とかも全部スペック表記されてた。開け放しの縁側の向こうに目を向ければ庭木があって、その木にも説明があった。下の雑草を見てびっくりした。雑草のスペックまで分るなんて!


「凄い……」


 どうやら取捨選択ができるみたいで、雑草に集中したら他の吹き出しがみんな小さくなった。――でもこれ、何の役に立つんだろうか。あれかな、人間だったらHPとかMPとかが見えるのかも。って、そうだ! 野菜のスペックが見れたらとっても便利!

 でも毎回凝するのって大変だな……。それともこれって慣れなんだろうか?――きっと慣れなんだろうなぁ。


「よし、じゃあ今日は一日中凝をしとこう!」


 うん、と頷いて凝を解かないように目に集中した。これって集中力の問題な気がしてきた。野菜のスペックを見るためなら頑張れる、と思う。

 そう決めてからずっと凝をして畳の吹き出しをズームさせたり庭に植わってる木の吹き出しをズームさせたりして遊んでたら、いつのまにかお昼も過ぎて八つ時になってたみたい。達太郎がお味噌を塗った焼きおにぎりを持ってきてくれた。


「食べても良いの?」


 二つあるから、きっと片方は達太郎のだろうと思う。お昼を食べる習慣がある私にはお八つが甘味じゃなくても全く問題ない。だってお腹減った。

 市販されてるのより一回り大きいそれをお箸で崩しながら食べる。熱くて持てない。ハフハフ言いながら食べたんだけど、凄く美味しかった。焼きおにぎりって醤油だけじゃないんだね、お味噌もなかなかいける。


「……あれ? 達太郎は食べないの?」


 ひとつ食べたところで達太郎が食べようとしないことに気付いた。食べてるの私だけ……。いや、でもこういう場合って仕えてる相手と一緒に食べたりはしないんだっけ。私は一応小太郎さんの被保護者だし、達太郎は厨房とかで食べてるのかもしれない。

 フルフルと達太郎が頭を振ったからきっとそうなんだと思う。でも私――養子だし。そこまで徹底しなくても良いのに。中身は十代後半だけど見た目は五歳なんだからちょっとくらい我がまま言っても良いでしょ。


「一緒に食べよ」


 お箸を渡したら困った顔をされた。え、駄目?


「達太郎はもうお八つ食べた?」


 達太郎はふるふると横に頭を振った。


「ならどうぞ」


 またふるふると横に頭を振る。お箸が一緒なのが嫌なのかな。


「お箸が嫌なの?」


 達太郎はぶんぶんと横に頭を振った。良かった、気持ち悪いと思われるのかと思った。

 皿とお箸を押し付け達太郎が何度も横に頭を振るから、やっぱり養子でも使用人と一緒の食事は駄目なのかもしれない。つまんないなぁ……。仕方ないからちらっと横目で達太郎を見れば、吹き出しが出てるのが分った。――人間にも適用されるんだね、この凝って。

 職業――忍者?……あれ? 使用人だと思ってた。バサラ世界って言っても地方領主とかいるだろうし、女中さんがいるんだし達太郎も小太郎さんに仕えてるんだとばかり思ってたのに――忍者?

 ……忍者?


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