08



 纏をしたら――発だっけ? 良く覚えてない。確か絶とか流とか硬ってのがあるんだよね。言葉の意味から大体分るけど、うろ覚え過ぎてあやふやだ……。

 達太郎が手ぬぐいを濡らしたりお水を持ってきてくれたりおかゆを食べさせてくれたりして、病人ってわけじゃいないんだけどなと少し思った。病人じゃないけど実際体動かないし、手伝ってくれなきゃ何もできないのは同じかもしれないけどね。

 達太郎がどっかに行っちゃったから暇だ。発の練習しちゃおうか。


「葉っぱ――無くても良いかな」


 湯呑みに注がれた水を見てちょっと首を傾げる。無くても問題ないと思う。きっと大丈夫さ。縁側まで這って行って湯呑みを置き、手をかざす。オーラを込めて力んでみれば、何かがころりと床に転がった。それは灰色の――


「メモリーカード?」


 プレステのメモリーカード。変なの、何でゲーム関係なんだ。でもメモリーカードが出てきたってことは何系――具現化系? 具現化系って水の中に不純物が出るんだから違うかもなぁ。他の系統に含まれないのは全部ひっくるめて特質系だったと思うし、私は特質系なのかも。あとでコンビニのお姉さんに聞いてみたらきっと教えてくれると思いたい。

 同じ水で何度かまた発を繰り返してみたらメモリーカードばっかりが三枚も四枚も出てきた。私、そんなゲーム好きだった覚えはないんだけど。出てきた順に表面にABCDEって書かれてるからどれがどれだか迷うってことはないんだけどさ、おかしくない? 私ガーデニングの方が好きなんだけど。スコップとか軍手が出て来るならまだ分るのに――何でメモリーカード。


「まあ良いや」


 どこかに置き忘れてなくしたらアレだから、達太郎に頼んで巾着をもらった。中に入れておけばとりあえず安心できる。でも縁側に出たのを怒られた。


「う……はぁい」


 布団を指差し仁王立ちする達太郎に項垂れて布団にまた入った。暇だ。明日からこんな生活をするのは――流石に子供の体だとは言っても駄目でしょ。働かざる者食うべからず。明日、畑の一区画を借りられないか聞いてみよう。そうだ。発で何か出て来るなら、いっそのこと植物の種が出てくれば良かったのに。つまんないや。


「達太郎、私、一人はつまんないから一緒にいて欲しいな」


 タネが出るでもなしガーデニンググッズが出るでもなし、明日からの畑仕事は憂鬱半分楽しみ半分だ。さっさと出て行こうとする達太郎を呼びとめてお願いしたら、コクリと頷いて私の横に座った。ちょっと気安い関係になれた気がする。


「達太郎の髪って綺麗だね。夕日みたい」


 戦国時代なのに髪が赤いのはバサラだからだろうな。髪の赤いキャラって言えば確か風魔小太郎がいたけど、達太郎の名前は達太郎だし。小太郎さんの名字――思い出せないや。後でまた聞こう。達太郎の髪に手を伸ばせば仰け反って避けられた。ちょっと傷ついた。

 顔の下半分を見る限り達太郎の顔は整ってると思うから、前髪が目元を隠してるのがもったいない。横に髪を流して顔を出せば良いのに。シュンとしたら達太郎が何か言い訳をするように両手をぶんぶん振った。


「顔、見せてくれる?」


 達太郎は今度は首を上下にがくがく振った。鼻まで届く赤い髪を掻き上げて現れた顔は――美少年だった。顔に血が集まる。

 今の私より頭一つ背が高いとはいえ達太郎はまだ十歳にもなってないだろう年齢で、昨日までの私なら恋愛対象外だ。でも、私は今五歳――達太郎と釣り合う年齢。体に引きずられてなのか、達太郎が凄く魅力的な少年に見える。ショタコンじゃないぞ、ショタコンなんかじゃないんだから! これは肉体年齢に引きずられてるだけなの! それに私が肉体的に結婚適齢期になった時、達太郎も適齢期なんだ! 問題なんて一つもないんだからね!

 達太郎が唇を引き結んで髪を戻そうとしたのを引き止める。お姉さんが悪かった。決して達太郎の顔が嫌いだから顔を背けたんじゃないよ。


「あ、待って達太郎! 私達太郎の顔とっても好きだよ!」


 手を伸ばせば今回は避けられなかった。前髪を横に流して達太郎の顔を観察する。羨ましいくらい睫毛長い、目も切れ長ですっきりしてるし、眉もきりりと形良い。ああ美少年!


「わあ、金色の目」


 お月さまみたいと言えば、まじまじと見つめられた。え、なに、どうしたの?


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