07



 早朝と言うにはまだ早い、日の出まであと一刻残す寅三つ時。とある部屋から突如巨大な気配が広がった。この風魔の里に侵入者か? いや、いくら婆娑羅者が生まれなくなったとはいえ見つかるほど落ちぶれてはいない。では内側からか。――そして、青ざめる。あの部屋は螢様がお休みになられている部屋ではないか!

 達太郎が傍に居ながら何が起きた。そう考えたその時達太郎が慌てた様子で私のところへ現れた。声が出ずとも唇を読めば容易い――急にこのような状態になって慌てて指示を受けにきたと言う。

 螢様の部屋へ向かい見れば、荒い息をつき玉の汗を流し苦しまれている。そして室内に満ちる圧迫感――これは仙気か。もしや仙界から人界へご降臨なさったことで螢様の体に不調が現れているのかもしれぬ。達太郎に命じ水と手ぬぐいを持ってこさせ、額に濡れた手ぬぐいを乗せた。





 そして一刻も過ぎたろうか、空が白み日が顔を出した頃螢様の仙気は薄れ、安らかな呼吸に戻られた。糸が切れたように眠られる螢様の手ぬぐいを再び冷やし乗せ直し、女に任せてその場を後にする。


「達太郎」


 呼べば達太郎は平伏し私の命令を待つ。


「螢様を守れ、良いな。螢様の手となり足となり支えるのだ」


 掠れた「ははっ」という応えが聞こえ、満足し頷く。達太郎は将来小太郎の名を継ぐ。おらぬだろうがもし達太郎が継ぐことに反対の者がいたとしても、妻が仙人の類であれば達太郎が長となるのに否やを唱えられる者はいないだろう。

 螢様には達太郎を選んでもらわねばならない。他の似た年齢の子供などを近づけてはもしもの可能性があり危険、近寄らせて良いのは女だけにしておかなくては。


「――ふふ」


 つい昨日までは、この里は滅びゆく運命なのだと絶望していたと言うのに。螢様がいらっしゃったことで全てが好転し始めたように思える。将来のためになどと考え行動するのは一体いつぶりのことか。懐から扇を取り出しふわりと煽いだ。


「必ず娶れよ、達太郎――」


 そう言えば真剣な面持ちで頷く達太郎に笑みが浮かぶ。達太郎は優秀な忍の子、あと二年もせずに私に追い付くだろう。あとは婆娑羅さえ目覚めれば日ノ本最強の忍の名を欲しいままにすることは間違いない。この、唯一の婆娑羅を開花する可能性がある者――達太郎は責任重大だ。里を継ぎ存続させるのみでなく、仙女である螢様を地上に引き止めねばならぬのだから。命じる立場の私が言うのもなんだが――道は険しいぞ達太郎。


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