04



 私は生まれ変わって、誰かの子供になるはずだった――のに、バグが起きたのだとかで木の股から生まれることになっちゃった。それも五歳児の大きさで。

 木の股からっていうか、何もないところから子供が産まれたら勘違いするよね。小太郎さんが「御遣い様」って私を呼んだけど、きっと無から生まれたからそう思ったんだろうな。説明して納得してもらえるとは思えないし、追々勘違いを解いていけば良いかな。


「んへー」


 私は女の人にもみくちゃにされて体の隅々まで洗われ、長い髪は今まとめて頭の上でお団子になってる。肩までお湯に浸かりながら長い溜息を吐く。なんだか全身が血だらけみたいな気がしてたから、洗ってもらえて凄く嬉しい。でも今度からは一人で入りたいな。


「御遣い様?」

「はーい」


 長湯してこの小さい体が湯あたりしたらなんだし、六十数えてからお風呂を出た。優しく水っ気を拭われて着物を着付けられた。――着物が立派だ。上流のお家なのかな。そういえばお姉さんたちも皆しっかりした着物きてるし。

 帯をキュッと締められてちょっとグエッてなった。歩きにくいからゆっくり歩いたらお姉さんたちがそれに合わせてくれて、ちょっと感動。こんな気遣いをしてくれるなんて、やっぱりこのお家は上流のお宅なんだ! 小太郎さんじゃなくて小太郎様って呼んだ方が良いのかな、でも小太郎さんって呼んでも嫌な顔しなかったし……小太郎さんって呼ぼう。どうせ今の私は五歳児だもんね。


「長、御遣い様がいらっしゃいました」

「うむ」


 華族の皆さんの住むような木造住宅は庭も立派で、池に中島があるのを見ながら本格的だなと感心してた。流石上流家庭。


「螢様、湯加減はいかがでしたか?」

「ちょうど良かったです、えと、お湯をどうも有難うございました」


 部屋に入って小太郎さんの前に正座してちょこんと頭を下げたら、小太郎さんはにっこりとほほ笑んでくれた。流石お金持ち、懐が広い!


「それは良かった。着物も螢様に良く合っているようですし」


 下着がないのがちょっと寂しいけど、まあ子供だし。着物は下着着ないのが普通だし。真面目な顔して頷いてれば、いきなり小太郎さんの横に男の子が現れた。音もしなかったし気配もなかったからびっくりだ。


「螢様にはこの達太郎が世話係りとして付きますので、何でもこの達太郎にお命じください」

「はい」


 ――そういえば私は家なき子なんだった。これは小太郎さんが引き取ってくれるってこと、だよね? それにしても拾いっ子に世話係付けるなんて凄いなぁ、流石お金持ち!


「達太郎君、これからよろしくね」


 フルフルと達太郎君が頭を振ったのを見てちょっとショック。え、私の世話係するの嫌? 私としては早くこの家に慣れるためにも協力して欲しいんだけどな。

 顔に出てたのか、小太郎さんが笑いながら否定した。


「達太郎はお役目が嫌なのではありません。君を付ける必要がないと言いたいのです」

「そうなの?」


 そうすると達太郎君が何度も頷いた。じゃあ、達太郎って呼ぼう。年下の子だし、赤毛で可愛いからつい君を付けちゃったけど――恥ずかしいのかもね。


「なら達太郎って呼ぶね?」


 小太郎さんが疲れただろうから休むと良いって言ってくれて、達太郎に案内されて私は十畳くらいの部屋に通された。広いよ、無駄に広いよ! 物なんてほとんどないっていうか全然ないし、あるのは真ん中にちょこんと布団が置かれてるだけ。寂しいよ。

 お休みなさいませと言わんばかりに出て行こうとする達太郎を呼びとめた。首を傾げる彼に、両手を合わせてお願いする。


「達太郎、一人寝は寂しいの。私が寝るまでで良いから一緒にいてくれる?」


 達太郎はびくりと肩をはねさせた後、挙動不審にきょろきょろと周囲を見回して――部屋に入って来てくれた。


「有難う達太郎!」


 両手をきゅっと握って笑えば、達太郎が俯いた。どうしたんだろ。


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