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私はガーデニング――っていうか、庭いじりが大好きだ。花よりも野菜が好きだから収穫時には美味しく頂いてるんだけど。ペットボトルで稲作したり、プランターでトマトを育てたりするのが三度の飯より好き。皆は私を変な子って言うけど、こういう私みたいな人間がいなきゃ日本から農家がなくなっちゃうよ。
その日はタネ屋さんからの帰り道で、サツマイモの蔓を沢山買えた私は大満足だった。明日学校に持ってって植えるんだ。園芸部は私と顧問しかないから予算はほぼ私の好き放題で、広い庭にこれでもかと好き勝手植えてる。
「野菜を食べるとー、頭頭あたまー、頭が良くなるー」
数年前に流行った歌を替え唄にして歌いながら家路を歩き、大通りの交わる十字路で信号が変わるのを待つ。正面から小学生が五人楽しそうに話しながら歩いてくるのをぼんやりと見ながら立っていれば、やけに大きなエンジン音が聞こえ――私は眉間にしわを寄せながらそっちを見やった。
左手から十トントラック。それも居眠り運転で妙にスピードが出てる。右に寄りながらスピードを上げ続ける車に恐怖した。あのままじゃ小学生が巻き込まれる! どうしよう、どうしよう!!
「っ、逃げてぇ!!」
私は怒鳴った。小学生たちが目を丸くして私を見やる。私は手に持っていた、野菜の苗の入ったビニールをトラックに投げつける。意外と重い物が入ってるからか、勢い良くビニールは飛んだ。運良くトラックのガラスにバシンと当たり、驚いた運転手がハンドルを切った。――そして、その先にいたのは。
ドンッ!!
平べったいトラックの鼻が私を殴打した。持ってられなかった制カバンが飛んでいく。数瞬の浮遊感と、その後に続く背中からの着地。道路の真ん中に落ちたのか平たいところにベシャリと落ちたけど「良かったね」なんて言えるはずがなく。全身の感覚は失せ、まるで私には体がないような気持ちになる。ああでも、肺が熱い。
「カヒュー、ヒュー」
聞こえてくる掠れた呼吸音はきっと私のもの。ああ、痛くない。痛くないけど、分ってしまった。私は助からないんだと。目をギリギリまで動かしてみればコンクリに広がる真っ赤な液体、腕が奇妙な方向に曲がってる。二の腕から飛び出してるこれは骨かな。周囲で悲鳴が響き渡り、正常な判断能力を失くした運転手があばあばと言いながら運転席から転がり落ちて来るのが見えた。よっぽどグロいんだろう、私の体は。助けた小学生たちはと思って見やれば真っ蒼な顔で気絶する子が二人と、しゃがみ込んで泣いてるのが二人、残った一人は何が起こってるのか分らないんだろう立ち竦んでいる。
「ガハッ!!」
胸からせり上がってきた何かを吐き出せばそれは血で、唇の端からだらだらと零れる。
「ああ――」
死ぬんだ。
「農家の、お嫁さんに」
なりたかったなぁ。――それが、私の最後の言葉だった。今生の。
「いらっしゃいませーご注文はいかがですかー?」
そして私は念と緑の手を買って転生した。と、思った。
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