イギリス独自の料理は舌の肥えた日本人には食えたもんじゃないと思うが、イギリスで良かったと言える点が一応ある。それはイギリスが魚を意外と食べることとエスニック料理が多いこと。魚を多く食べる習慣ができたのは、確かエリザベス一世が発令した法令だったと思うんだが、週のある曜日には肉を食わずに魚を食えと命じたからだとか。まあそれの細かい理由は端折るがオレにとってうれしいことに違いはない。それとエスニック料理が多いのは――植民地が沢山あったからな、当然だろ。


「シェーマスは本当にフィッシュアンドチップスが好きね」

「ジャンクフードだけどな」


 魔法界の食い物は普通のイギリス食と味に大差ないからな……そこらへんの豪快・明快・漢の料理より大分ましだから頻繁に食べている自覚がある。


「太っても知らないわよ?」

「大丈夫だ、烏龍茶を飲んでれば太らないはずだ」


 中国料理はあんなに油っぽいのに何故中国人は痩せているのか、きっと烏龍茶を飲んでるからだ、きっと。どっかでそんな説を聞いたことがある。


「まあシェーマスはその分運動もしてるしね……今日くらいもっとさっぱりしたもの食べたら?」

「わかった、三本の箒に行こう。だがオレはバタービールを飲まない」

「はいはい」


 フィッシュアンドチップスを包んでいた古新聞を折りたたんでポケットに突っこんだ。注文するとしたらサラダとサーモンステーキかな。






「サラダ、ドレッシングはサウザンドアイランドで。それとサーモンステーキをお願いしたい」

「ステーキには何をかけるかしら?」

「じゃあレモンを添えてくれ」

「分かったわ。貴女は?」

「バタービールを下さい」

「こっちの貴方はバタービールを飲まないの?」

「いらないが炭酸水をくれると嬉しい」

「了解、ちょっと待っててね」


 三本の箒に入り、少し奥まった分かりにくい場所に席を見つけた。注文を取りに来たのはマダムじゃなかったがなかなか慣れた店員で、軽いステップで狭い店内を歩き回っている。


「こういう場所に良く来るの? なんだか慣れた感じがしたわ」

「良く来るほうだな。店員とどう話せば良いのかも熟知してるつもりだしな」


 元魚屋の看板娘なめんな、どういう客が上客かは一目で分かるからね。高級そうなスーツを着てるビジネスマンは、金を持ってるかもしれないけど財布の紐が固い。まあこれは話術でどうにかなるから問題ない。問題は服装と他人の目に頓着しなくなった金持ちだ。小金持ちや中金持ち(そんな言葉があるのかは知らないけど)は服装に気を使うが――大金持ちはアロハシャツに短パン着たりしだすから始末に負えない。でもこういうのに限ってなかなか金を出さないんだよな。――とまあ、そこらへんの魚屋らしくないこと言ったけど、我が家は魚屋兼料亭だったんだ。いろんな人間を見てきたんだよ。


「ホグワーツを卒業したら料亭を開くんだ。それがオレの夢かな」


 エスニック料理を受け入れた基盤があるんだ、オレが日本料理を持ち込んだところでそう反発はないだろ、きっと。


「ならその時は私を雇ってくれる?」

「ん? ああ良いぞ」


 ジニーが瞳を輝かせながらオレに身を乗り出し訊いてきた。ジニーも料亭に興味あるのか、そうか。軽く頷けば何故かジニーは沈んだ顔になった。


「どうしたんだジニー?」

「この、鈍感」


 訳が分からない。


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