03



 ノブナガに抱えられアジトらしき場所に連れて行かれる。俵抱きだから腹が痛い。


「ほいよっ」

「つっ」


 遠慮とか優しさとかなしに落とされたため膝を擦りむいた。じくじくとした痛みに、滲む血――青い?


「青い?」


 目が膝から離せない。何故なら血は赤いはずだというのに、私の膝から滲んだのは青い液体だったからだ。


「どうした、由麻」

「ああ――どうしたことか、血が青いんだ」


 王侯貴族を言うsangre azul(青い血)という呼び方も、実際に血が青いということではなく農耕作業をしないために白い肌から透ける血管が青いためについただけのこと。実際に血が青いわけではない。


「血が?」


 ノブナガがしゃがみ込み私の膝を見た。擦り傷から垂れ、流れる血は青い。


「念か……? いや、目覚めてねーしなァ」


 ノブナガは不思議そうに首を傾げ、唾付けときゃ治ると言って私の頭をなでて立ち上がった。実際なめたら治るというのは本当らしいからどうとも言えないが――適当すぎやしないだろうか。


「ノブナガ、そいつ誰?」

「由麻だ、拾ってきた」


 王子顔の青年――少年?――が顔を出した。シャルナークだろう。シャルはへーだのほーだのと言いながら近づいてきたかと思えば、ノブナガに爆弾を投下した。


「ノブナガってロリコンだったっけ?」

「ロリコンじゃねぇ!」


 ロリコンといわれるほど年齢差があるとは思えないのだが、これは東洋の神秘で片づけて良いものやら。ついでに日本人は白人には実年齢の七掛けの歳に見えると考えると誤解がない。

 私は自分の膝を見た。滲む血――も問題だが、なんだか膝がツルツルしている気がしないでもない。手も一回り小さくなっただろうか? 指にペッペッと唾を付けて膝に塗ればチクチクと痛む。


「知らなかたよ、ノブナガ……ロリコンだたなんてね」

「だから違ェっつってんだろが!」


 ぞろぞろと現れた幻影旅団の面々に圧倒されるというより見惚れる。向こうで一番好きな漫画だったのだ、今見なくていつ見るというのか。団員を無視して少し離れた場所に座るクロロは緋の眼の入った容器を持ち、飽きない様子で眺め透かしている。私はクロロとは気が合うと思うんだ――お互いオタクだから。


「私がクルタ族の村で見つけてきたのさ」


 マチが私の横に立って頭に手を置いた。やはり私は縮んでいるらしい。団員の中でもそれほど背が高くないはずのマチが、肘を曲げることなく私の頭に手を置いている――


「じゃあクルタの生き残りじゃないの?」


 シャルはそう言いながらも、私がクルタの生き残りでもそうじゃなくても問題ないと言わんばかりだ。私は弱い、シャルは強い――当然だろう。


「私は違うと思ったけど、パクに確かめてもらえば確実だと思って」

「あら、私?」

「ああ。パク、お願いできる?」


 マチが私に立つよう肩を叩き、私はパクに近寄り彼女を見上げた。背が高いな……首が痛い。


「貴女、名前は?」

「由麻」

「そう。――貴女はクルタ族の生き残りかしら?」

「ううん」


 パクが私の頬に手を当てながら訊ね、私は否定した。パクが笑顔になる。ノブナガの安堵のため息が聞こえた。


「この子は一般人よ」


 どうやら他の記憶までは見なかったらしい。『クルタかそうでないか』だけの確認だったから齟齬に気付かなかったようだ――私が縮んでいること、異なる世界の人間であること。

 と、ボソボソとノブナガがマチに耳打ちした。マチが頷き私の手を取る。


「喉が渇いてない?」

「渇いてる」


 手をひかれ部屋を出る。一体何を話すのか――私について話すことなどないだろうに。









*sangre azul=ブルー・ブラッド


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