02
気が付けば死屍累々たる惨劇が広がっていた。ここは――どこだろうか。地面に転がるそれらの眼窩はみな空洞で、切られたり潰されたりした体は鉄錆の匂いを発している。
「うっ……」
魚の腹を開いた時の倍――いや、五倍くらい気持ち悪い。血の匂いが濃いし、はみ出た臓物が黒々とテカっている。でも、吐くほどのことではない。そこまで感情移入できない。
鼻を押さえながら、死体を避けて歩く。近くから複数人の声が聞こえたからだ。
「あんた、クルタの生き残りかい?」
どうやらここは村らしく、何軒も似たような作りの建物があった。声を探って向かえば、いつの間にか後ろに誰かいたらしい、声をかけられた。
「クルタに生まれた覚えはない」
「じゃあ何でここにいる?」
「分らない。ここにいる理由も原因も分らない」
「――ついて来な」
後ろから私を追いこして行ったのは桃色の髪をした少女だった。私より背が高い。
クルタ、目のない死体、桃色の髪の少女――どうやら私はハンターハンターの世界にいるようだ。異世界トリップとは本当に実在する現象らしい。
「ウボォー、ノブナガ。変な餓鬼を見つけた」
「ほお」
「何が変なんだ?」
人類の限界を突破したような体格の男がきっとウボォーで、曲がったちょんまげの男がノブナガだろう。漫画の中よりも少し若い。
「死体の中を吐くこともなく普通に歩いていた」
「それのどこが変なんだ?」
「馬鹿かウボォー、普通の餓鬼が死体を見て吐かないと思うか?」
「そういうことさ。黒髪だからクルタ族ではないかもしれないけど、この隠れ里にいる限り断定はできない」
ノブナガの言葉に、マチが頷く。
「おい、オメーさんの名前は?」
ノブナガが膝を突いて私と目線を合わせた。今私と彼らの間には三十センチ以上の身長差があるからだろう。それにしても背が高いな、三人とも。私は一応百五十は有ると思うんだが。
「由麻」
「ふんふん。由麻はどうやってここに来たんだ?」
「自殺したと思ったら死体の中に立っていた」
ノブナガが変な顔をした。
「由麻はこれが分るか?」
さっきから質問ばかりだな。ノブナガは人差し指を立てて私に見せた。
「人差し指、もしくは一本」
「――分った」
ノブナガが立ち上がった。
「コイツあオレが引き取るわ」
「分った」
「ああ」
何がどういうことなのか分らないけれど、私はノブナガに抱きかかえられ連れて行かれた。
俵抱きにされて移動する道中、ポケットに触れれば小さな長方形の感触があった。――また彼に会えるだろうか。いつか。
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