04*
話してる内に口論になり、オレは怪我人のはずなのに取っ組み合いの罵り合いになった。まだ本調子じゃねーオレはすぐにスペルビにマウントポジションをとられ、むかつく笑顔で見下ろされることとなった。
「ずりー、こっちは怪我人だぜ? もっと優しく扱えよ!」
「ハッ! テメーに優しくしてどーすんだぁ?」
オレたちはお互いに集中するあまり、扉が開く音に気付かなかった。
「あっらー……私、お邪魔虫みたいねっ」
うふーん、と小指を立てたのはルッスーリア。
「貴方ローンディネよね? 私ルッスーリア、ルッスって呼んでね? 貴方のことはスクアーロから何度も話は聞いてるわよ。愛し合う二人を引き離そうとなんてしないわ、安心して付き合って頂戴!!」
「……」
「……とりあえず。スペルビ、オレの上からどいてくれ」
「ああ……そうだな」
いそいそとベッドから降りるスペルビに不満そうな顔を向けるルッスーリア。いやもうホント、何でそういう方向に話を持ってくんだ?「優しくしろ」「優しくしてどうする」って会話からか? オレは怪我人だから普通に考えれば怪我のことだって分るだろ。
「ローンディネは――向こうの十代目の守護者候補だぁ……」
「あらっ! それならロミオとジュリエットね!」
こんな可愛い子、私倒せないわー! とくねくねするルッスーリア。これが女だった場合を想像すればさして変な行動をしてねーってことに気付いた。ただ「オカマ」ってだけなんだな。似合わないことは確かだけど。
「ゆっくり愛を育んでちょうだい! スクアーロ、初めてを痛くしたらダメよ?」
「黙ってろぉオカマ!!」
「いやーん!」
スペルビがオレの枕をルッスに投げつけ、バタンと扉が閉まり外界と部屋が遮断された。
「なんだったんだ、あれ」
「気にするなぁ」
「分った……ん、眠ぃ……」
疲れの溜まってるオレはさっきの取っ組み合いでへばったらしい。ルッスの登場で一気に緊張の糸が切れ、自然と瞼が落ちる――
「ゆっくり眠れぇ、ローンディネ」
優しい目をしたスクアーロの顔を最後に、オレの意識は再び闇の中に沈んだ。
ローンディネを連れて来たのは、ただ話をするためだけでもあの十代目候補について詰問するためでもねぇ……オレが連れて来たかったからだ。ダチだっていうあのダイナマイトの餓鬼も気に入らねぇし、こいつのボスなんだろうあの十代目候補も気に入らねぇ。可愛い弟分? 前半は間違っちゃいねぇが後半は違う。オレはこいつが好きなんだ、一人の人間として。キスしてぇし抱きてぇし、オレ以外の奴らに触らせたくもねぇ。あの餓鬼が十代目候補で、そうするとこいつが守護者候補だということになる。オレ以外の人間に頭を垂れて、オレ以外の人間の命令に従うコイツなんざ想像したくねぇ。
「ローンディネ、ローンディネ……」
きっとボスのことだぁ、日本にいる候補の奴らを殺して後顧の憂いを絶とうとするだろうなぁ。ダチだって言った奴らが殺されたと後から聞かされて――こいつはどんな顔をするんだ? オレを責めるか、罵るか……?
「好きだぁ、オレの燕」
寝入ったローンディネに覆いかぶさり、触れるだけのキスを落とす。二度三度と押し付け、寝顔を確かめる。起きる気配はねぇ。背中に腕を差し込み転がしても安眠してやがるローンディネに苦笑を洩らし、そのうなじに吸いついた。赤い跡が残る細い首に切なさが募る。コイツはオレの気持ちなんてしらねぇ。ただの義兄弟だと思って――兄に対するようにオレを慕ってくる。
だから今だけだぁ……今だけ、お前をオレの物だと思わせてくれ。
「愛してるぞぉ、ローンディネ」
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