03
何も食ってねーから胃液だけが逆流して口から溢れた。吐きそ、いや、吐いたのか。――ちょっと混乱してるっぽ。
「ロン毛!! 死ぬ気でお前を倒す!!」
慣れない脇差し一本での、剣豪との戦闘――。流石のオレも精神をすり減らしてたみてーで、立ち上がろうと頭を振り上げた瞬間ガンッ! と視界がぶれた。やべ、これはゆっくり立ち上がるべきだった……。気絶しちまう。
「つっ!!」
仕方ねー。オレは太ももに脇差しを突き立てた。神経は避けてるからすぐに治ることは間違いない、今はスクアーロとやり合う方が大事だ。
「山本?!」
「ローンディネ、無茶すんじゃねェぞぉ!!」
一気に覚醒する思考と痛みに口元を歪めればツナとスペルビがオレを振りかえって怒鳴った。
「今はオレとスペルビの殺り合いの真っ最中だろ?――ツナは、邪魔だ」
「――ッ!」
ツナの死ぬ気の炎が消え、グローブが毛糸の手袋に戻る。口の端から流れる胃液の筋を拭い、脇差しをふたたび構えた。
「殺り合おうぜ、スペルビ……!」
「――テメーがそのつもりなら、容赦しねーぞぉ……」
スペルビが構え、オレ達は睨みあう。兄貴分だろうが弟分だろうが、これは剣士同士の戦いだ――情けは無用。
「覚悟決めろぉ、ローンディネェェェェ!!」
決まった技とか、そんなのはなしで、ただスペルビが振い――オレが受け止めた。
「ぐぅっ!」
ほぼ受け流したとはいえ衝撃が腕を殴り付け、疲労とリーチの差による隙だらけの腹にスペルビの膝が吸い込まれた。
「あがっ!」
「ローンディネ、お前には後で話を聞かせてもらうぜぇ!! その前に――テメーだぁ!」
薄れ行く視界に、スペルビに斬りつけられるツナの姿が映る。そして響く声――相変わらずだな、S・スクアーロ……。
オレはそれ以降どんなことがあったのかをしらねー。気絶してたからな。
「あれ、どこだここ――ってぇ――!!」
目覚めたのは、病院と呼ぶにはそう言った器具のない部屋だった。ただ手当がされ寝かされただけみてーだ。廃病院か? にしては内装が豪華だけど。
と、部屋の扉がドカーンと開き、長い銀髪が入ってきた。――スペルビ?
「う゛お゛おい! 起きたみたいだなぁあ!!」
「あれ、スペルビ? なんでここにいんだ?」
「オレが連れてきたからに決まってんだろぉがぁ!!」
「え、うっそー」
そりゃあオレが今さら修行する必要性はねーけど、まさかの展開だな。
「う゛おい、嘘を吐く必要があるかぁ? ねえだろぉがぁ、お前は黙って治療されてろぉ」
ベッド際に立ったスペルビに頭を撫でられる。加減されてるけど力を入れ過ぎだ、髪がぐしゃぐしゃになるじゃねーか。
「――まあ、テメーを連れてきたのはただお前と話をしたかったからだけじゃねぇ……聞かせてもらうぜぇ、あのツナとかいう十代目候補のことをなぁ!!」
横から引っ張ってきた椅子にドカリと座り、スペルビはニヤニヤとオレを見下ろした。オレ、絶体絶命っぽ?
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