02
「安全な場所へ!! おぬしに伝えたいことが!」
枯れ葉頭がツナをひっぱってどこぞへと逃げようとしたのに眉間を揉む。――なんで今までのやり取りで、スペルビがツナの顔を知らなかったってわからねーんだ? 頭悪いんじゃねーの?
「う゛お゛ぉい」
スペルビがツナの前に着地する。もっとこう、軽やかに着地しよーぜ?
「もう鬼ごっこは終わりにしようや」
「で、でた――!!」
「悪役っぽ、スペルビ悪役っぽ!」
「テメーは黙ってろぉ!」
唾が飛ぶくれー怒鳴られて耳に指を突っ込んだ。
「――で、何だ? そいつは」
「オレの友達?」
「何で疑問形――?!」
ツナの突っ込みはいつも冴えわたっててスゲーよな。こんな場面なのになー。
「そろそろ教えてもらおうか?」
スペルビが体重を利用した急加速で枯れ葉頭の懐に入り、左足を軸に起き上がる勢いで剣を滑らせる。枯れ葉頭は避けきれねーでショーウィンドウに突っ込んだ。
「き……君!!」
駆けよるツナを呼びとめ、スペルビは枯れ葉頭とどういう関係なのか問い質した。
「ゲロっちまわねーとおまえを斬るぜ」
「ひいいっ! そんなあっ、えと……あの」
逃げ腰のツナに切っ先をちらつかせ脅すスペルビ。と、獄寺が復活した。あ、リボーン! って意味じゃねーぜ?
「その方に手を上げてみろ――ただじゃおかねぇぞ。山本が」
「え、オレ?」
「お前にきまってんだろうがクソ本!! お前がローンディネだってんならそれ相応の働きをしやがれ!」
十代目が逃げる時間を稼ぐためにテメーは囮になれ、と小さく言ってきた獄寺はあの枯れ葉頭より役に立つんじゃねーか? こういう状況で冷静さを保つのは経験がものをいうしな。
「う゛おおいローンディネ! オレに盾突く気か……?!」
「あー、成り行き上?」
「だから何で疑問形?!」
オレとスペルビが話してる間に獄寺がツナに合図を送る。ツナは――気付いたみてーでズリズリと後退しはじめた。
「ローンディネ……テメー、オレに勝てると思ってんのかぁ?」
「五分五分じゃね? オレの時雨蒼燕流は完全無欠最強無敵だからな!」
時雨蒼燕流に負けはなし。――そう決まってるからな。
「テメーら、真面目に敵対しやがれ!!」
和気あいあいと話してたら獄寺がキレた。時間を稼げってったのはお前だろ、なんでオレは怒られてんだ? 獄寺はダイナマイトを取り出しいつものように――
「果て――」
「おせぇぞ」
ダイナマイトの導火線が斬られ、左足を軸に叩き落とすように蹴りが獄寺を沈ませる。――さっきのまま時間を稼いでりゃ、跳ね馬が来るまで保たせられてったのに……まあ、仕方ねーか?
「う゛お゛ぉい! 話にならねーぞぉ、こいつ」
スペルビは鼻で嗤って左腕を構える。――そこに滑り込みオレは剣を刀で受け止めた。時雨金時には劣るけど、ねーよりはましだな、山本の竹刀。野球少年にならねーで剣道やってたからか、バットじゃなくて竹刀になちまった。これじゃ時雨金時と変わらねー。
「ローンディネ」
「スペルビ、すまねーけどコイツはオレのダチなんだわ」
だから殺させられねーと笑えば、スペルビがニヤリと笑んだ。――枯れ葉頭、今の間に逃げやがれ。
「沢田殿、今の間に――」
「え、でも山本がっ」
「今はこちらが大切です」
枯れ葉頭がツナを引っ張って逃げ出す。よし。
「スペルビ、久しぶりに全力でっ」
「殺り合うかぁ!」
気絶した獄寺にはワリーけど蹴ってどかせる。蹴った衝撃でも起きねーってどんだけ強打したんだ、スペルビ。
「いつもの刀じゃねぇなぁ」
「ああ、時雨金時はウチにあんだ。代わりの刀ですまねー」
「それで勝てると思ってんのかぁ?」
「勝たなきゃ――剣士じゃねーよっ……!」
お互いの剣を弾くように振い、バックステップで姿勢を正す。
「一流の剣士は、刀を選ばねーもんだからな」
構え、突撃する。刀と剣の使い道は違い、刀は斬ることに特化し剣は主に潰すことに特化している。上から叩き潰すのが剣だ――振り下ろされる剣を反りに沿うように受け流し、蹴りを放つが同じく足で止められる。こっちは両手、向こうは片手……空いた手が拳を作り腹を狙うが体を捻って避けることに成功する。代わりに刀を持つ両腕から少し力が抜けてしまった。
「殺すつもりで来やがれぇ! じゃねぇとオレには勝てねェぞぉ!!」
「分ってんよ!」
時雨金時ほどの重さがない。軽すぎる。振ってもスピードは出るけど勢いがねぇ。
「いつもならもっと楽しみてーところだが、今は時間がねぇ……一気にケリを付けるぞぉ、鮫の牙――!」
あまりにも速い剣筋が故に残像が見え何本もの剣先が見えるサンナ・ディ・スクアーロ。……技に自分の名前淹れて恥ずかしくないのかって聞いたら、恰好良いだろうがぁ!! って返って来た時はセンスを疑ったんだよなぁ。
「チッ――遣らずの雨っ」
山本の竹刀は軽すぎるのが難点だが、その分スピードは出る。どれだけの時間稼ぎになるかは分らねーけど――とりあえず跳ね馬が来るまで持ちこたえろ、オレ……!
速くはあるが一直線にしか走れない遣らずの雨を叩き落とし、スペルビはニヤリと口元を歪めた。
「武器をテメーで手放すとは――馬鹿かぁ?」
「ああ、馬鹿かもな……?」
スペルビは刀を踏み、たとえ拾ったとしても使えないようにポッキリと折った。
「だが、武器がそれだけしかねーとは言った覚え、ないんだけどな」
上から真っ二つに斬ろうと向かい来る剣を、右腕で受け止める。普通なら腕が斬り落とされるけど――
「脇差しだ。ちょっとリーチが短えけど、ねーよりはましだろ?」
「それでこそローンディネだぁ……!」
袖からするりと滑るように落ち、出てきたのは脇差し。刀身は半分ほどしかねーけどある分ましだ。
何合となく斬り結び、跳ね馬が来るのを切実に願う。おせぇ……このままじゃ負けちまう。オレにはツナみてーな超直感もねーし、今の今までローンディネだってことも隠して来た。跳ね馬がツナのいる方じゃなくオレのいる方に来る可能性は低い。このまま殺られるか?! 本気も出しきれねーまま?
「チィッ!!」
残った力全てを込めて脇差しを振えば、同じ極同士のように逆向きに弾け飛んだ。
「まだ元気が残ってるみてーだなぁ!!」
スペルビも体力が残って――いや。あいつは元々大声だ、消耗してるだろう。
「テメーは可愛いオレの弟分だ、殺しはしねぇ……連れて帰るがなぁ!!」
「オレの意思は無視かよ?」
「ハッ! テメーの意思だぁ? ンなもん知るわけねえぞぉ!」
なんて傲慢な。
そして体力がガリガリと削られ、スペルビの蹴りがオレの腹を容赦なく突き上げたその時。
「そこまでだっ!」
スペルビの腕を掴んでとどめの一撃を止めたのは――ツナ。
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