06



「緑たなびく並盛のー」


 可愛らしい声にふと顔を上げる。雲雀恭弥に手を引かれて並盛風紀委員会のアジトまでやってきたは良いけど、この体になってから初めて見る外界は色彩に溢れていて興味深かった。――ほんの数か月前まではこれと同じ環境にいたはずなのにね。


「ヒバリ、ヒバリ、帰ってきた」


 ポスンと僕の頭に何かが着地する。――元バーズの小鳥・ヒバードだろうか。


「……ふぅん」


 ヒバードが乗った僕を見下ろして雲雀恭弥は鼻を鳴らし、興味を失くした様に正面を向く。原作ではたしかヒバードを可愛がってたと思うんだけど、ここでは違うのかもしれないね。空いた手を頭に伸ばせばヒバードが手に乗り移った。黄色いもこもこ……。


「ふふ、可愛い」


 頬を寄せてみれば、全身が羽毛みたいにふかふかで柔らかい。これで空を飛んでるって言うんだから変な生き物だよね。風切羽――あ、あった。


「あげるよ。欲しいなら」


 僕は雲雀恭弥を見上げた。正面を向いたままで表情は窺い知れない。


「ううん、良い」


 僕は頭を振った。これは雲雀恭弥の鳥だ、僕が拾ったわけじゃない。


「そう」


 雲雀恭弥はそっけない返事をした。


「有難う」


 くれようとしたことは確かだしお礼を言っておいた方が良いかな。言えば、雲雀恭弥は返事をしなかった。どうでも良かったのかもしれない。物欲の薄そうな男だし――並盛以外に興味も関心もないんだろうね。雲雀恭弥に握られた右手に意識を向ければ、トンファーを握って堅くなった手が感じられる。これが戦う人間の手。僕みたいに柔らかい手ではない――命を奪ってきて、これからも奪い続ける手。


「ねえ、雲雀恭弥」

「――何」

「どうすれば僕も貴方のようになれるの?」

「なりたいの?」

「なりたいし、ならなくちゃいけないと思う」

「ふーん。好きにすれば」


 僕は怪我なんてすぐに治る。痛覚を含む触覚、視覚、聴覚、味覚、嗅覚――全ての信号を遮断することができる。まだ試したことはないけど死ぬ気の炎を消化吸収することもできる……理論的には。人間でない僕が、人間の社会に適合できるはずもない。ヒトであることを捨てた裏社会ならともかくとして。

 手の中のヒバードが飛び立った。


「着いたよ」


 そこで僕は草壁哲矢に紹介され、そしてその日から、草壁哲矢から指導を受けることとなる。









「貴方は分りにくいほど分りやすいね」

「意味が分らないよ」


 雲雀恭弥と父と子になってからそう言った時、彼は嫌そうにしかめ面をした。


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