03
僕は雲雀恭弥に引き取られることになった。僕と僕と同じシリーズのクローンたちに関する資料はもちろん回収され、あの犯罪者どもは血の海に沈んだ。
「生まれた時から日本語を話せたんだね」
「うん。何か特別な違いが僕と僕の同期の間にあったとは思えないけど、生まれた時から意識と言語を獲得していたのは僕だけだよ」
「ふぅん」
イタリア語で書かれたそれをパラパラとめくりながら雲雀恭弥は鼻を鳴らす。あまり楽しい内容じゃないのは分ってる、資料に印刷されてたのは僕が模擬選でどんな成績を残したかについての表だったからね。いくら戦闘好きの雲雀恭弥も、戦えるとは言え閉じ込められるのと無理やり従わせられるのは当然嫌だろうし。
僕は喉が渇いたような渇いてないような――渇きよりも空腹が先立って、実のところオレンジジュースよりクッキーが欲しかった――微妙な気分でストローに口を付ける。あ、美味しい。搾りたての香りがする。
「――そういえば、頭の怪我はもう良いのかい」
雲雀恭弥がそう訊ねてきた。僕、頭に怪我なんてしたかな……あ、あれか。
「もう塞がってるし、異物は摘出したから」
普通なら、僕の有する自己治癒力――元の状態に強制的に戻ろうとする力は、あの一センチ四方の機械をすぐに吐き出すはずだった。でも吐き出さなかったのは機械から麻痺信号が発信されていたからで、本体を壊せばすぐに頭蓋骨に刺さっていたコードも自然に抜けた。リボーン世界の科学力には全く舌を巻くしかないね。
「あれ、何だったの」
「僕の躾の一環だよ、従わなければ殺すっていう脅し。流石の僕も脳に四百ボルトの電圧を受ければ死ぬ……。あれだけの小さな機械に四百ボルトの電圧を蓄電するんだから凄いよね」
それでもただ「脳死」するだけであって、その物言わぬ人形と化すだろう僕のなれの果ては「死ぬ」ことなどない。餓死させるとかマグマに落とすとかしなければ、本当の意味での生命活動の停止はないんだ。エネルギーさえあれば、僕は驚異的な速度で再生し続ける――火葬しても骨になることがない。
「へえ、そんなことしてたんだ……あの研究所」
「まあ――もうどうでも良いから気にしてないんだけど」
資料を向かいのテーブルに放り投げ、正面に座る僕を見つめる。手の中のオレンジジュースをストローで吸い上げれば、一気に三センチくらい低くなった。
「ねえ、君」
「何?」
雲雀恭弥は言った。
「今日から君、僕の息子ね」
この世界に来てから始めて差しだされた優しさは命令で、名前のまだない僕はその日――雲雀という固有名詞を得た。感慨は何もなかったし僕は頷いただけだったけれど、僕という個性の存在が許された……そんな考えに至っていた。
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