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オレの名前はシェーマス。シェーマス・フィネガン。どこかでみんなも聞きおぼえがあるだろう――そう、かの有名児童文学作中で目立ちも埋没もしない微妙な位置にいたキャラの名前だ。そのものすごく微妙なモブキャラに、オレはなっていた……。あ、オレはこれでも元女。魚屋の看板娘だったんだ、シェーマスになる前は。一人称はその時からオレだったし、両親にはもっとおしとやかにしろって言われるくらい粗野だったから男になってラッキーと思ってる。顔も悪くないしな。
「どうしたんだ、赤毛の子」
オレは今二年生。ハリーたちも二年生。今年は秘密の部屋が開く年だから、ロンの妹ジニーがあっちをふらふらこっちをふらふらするはずだ。
「あ、えっと」
ただどうしたのかと訊ねただけのはずなのに涙目になってるのはきっと、精神的に余裕がない証拠だろう。それに彼女のローブには鶏の血がべっとり付いてるし、追及されるのが怖いんだろうな。危機対応能力が著しく低下している、といったところか?
「今日はハロウィーン、楽しまなきゃ損だ、そうだろ? そのローブはオレがなんとかしてやるからコレ着とけ」
私の一年生の時のローブ(夏休みにありえんくらい背が伸びたから買いなおすことになった。まだ一年しか使ってないのにもったいない)を押し付けて血まみれのローブを引き取る。鉄の臭いがする――よっぽど血を流したな。まったく女の子に対して酷いことをする奴だ、女の子はもっと大切にしろよな。
「あの、その――」
「ん?」
「き、聞かないの? どうしてそんなペンキがついてるのかとか……」
「聞かれたいのか? なら聞こう、誰に苛められた? 可愛い女の子をこんなペンキまみれにした馬鹿の名前を知れるなら知りたいからな」
「――えと、えと」
苛められたなんて全く思っちゃいないけど、変に後から疑われたら面倒だからそういうことにしよう。腰を落として赤毛を撫でながら微笑み、最後に肩をポンポンと叩いた。
「やられたら自分でやり返すんだ、目には目を、歯には歯をって言うだろ。もしこれ以上自分だけじゃどうにもならないって思ったらオレとか先輩とか、頼れそうな奴に相談して一緒に考えてもらえ。な?」
ジニーの顔に少し赤みが戻ってきた。可愛らしく笑んで頷く。――ハリーにはもったいないな。
「頑張れよおチビさん」
大広間からパクってきたかぼちゃパイやら何やらを詰めたバスケットを押し付ける。明日のおやつにするつもりだったんだけど仕方ない。可愛子ちゃんの笑顔のためだ。杖を振り血まみれのローブを洗濯所へ移して証拠を消してからクルリと踵を返して寮へ向かう。と、ジニーがオレを呼び止めた。
「あ、あの!! 先輩の名前はなんて言うんですか?」
「名乗ってなかったか、オレの名前はシェーマス。シェーマス・フィネガンだ」
「私、ジニー・ウィーズリーです」
「そっか、じゃあジニーまたな」
「はいっ」
これが原因でジニーから相談される間柄になって、不思議な本なのよと言ってリドルの日記を渡された時には本気でどうしようか悩んだ。だってどうせさ、秘密の部屋に行かなくても話は進むじゃん? 一日日記を借りて考えたけどなかなか答えは出なくて、こっそり分かりにくいように一枚頂いて返した。気が向いたらリドルと話せば良いや、なんかスゲー面倒。
「最近この日記が怖くて……シェーマス、私どうしたら……!! ママが入れてくれた本だから捨てるわけにもいかないし」
「んー、ジニーはママさんやパパさんからトム・M・リドルなんて名前の人の話聞いたことないんだろ? ならこの日記は本屋かどっかで紛れ込んだ可能性がある。本屋だからな、何か曰くつきの日記なのかもしれないな」
「あ、そうか……じゃあ私盗んじゃったってことになるのかな」
「んー、不可抗力だから気にする必要ないな。で、ジニーはこの本が怖いんだろう? 捨てれば良いさ」
とゆーことで、原作通りマートルのトイレに捨てたジニー。焼き捨てれば問題なかったんじゃないかと思うのはオレだけか?
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