妖しの影がこんにちは



 私本人が「ヒーローなら助けに来い」と言ってしまった手前、ヒーローたるだけの力を手に入れた私が弱きを助け悪しきを挫く救世主にならずに誰がなるというのか……。自分の発言には責任を持とう。ということで私は正義の味方みたいなことを始めた。

 その日も化物並みのバイクを唸らせ明日助けを呼ぶ予定になってる相手がいる場所へと向かってた。そう、私にとってはそれだけのことだったのに。







「あら、見て。右側に凄いのがいるわよ」


 パクの言葉にクロロとフィンクスが見て、感嘆したように言った。


「ほう」

「何があんだ?――へぇ」


 納得したのか軽く口笛まで吹いたフィンクスに、私は一体外に何があるのか気になった。私側からだとクロロとフィンクスの体でそちらの外は見えないからだ。


「外に何があるんだ?」

「バイクだ。それも怪物並みの」


 フィンクスがリクライニングを倒して避けてくれたから私にも見えた。ウボォーやフランクリンでも運転を誤りそうな重量に――まあ二人はもちろん私たちがそんなヘマをするぱずもないが――流れるような優美なフォルムが華やかさを足している立派な二輪だった。男はああいうのが好きだな。もっと軽量化するなどして実用的にすれば良いのに。


「欲しいな……」

「おいおい。まぁ気持ちは分かるけどよ」

「追いかけるの?」


 クロロがぼそりと呟き、フィンクスはそう言いながらも楽しそうにしている。パクは運転席で指示待ち。私は――バイクはどうでも良いけど、乗ってる人間に興味がある、な。


「追え」


 クロロの指示で私たちはそのバイクを追う。フルフェイスのヘルメットを被った乗り手はしばらくして自分が私たちに追われていると気付いたらしい、突然スピードを上げた。いや、気付いていてこちらの気を緩ませるつもりだったのかもしれない。慢心は失敗を呼ぶ。


「凄いわ……あの重さよ? 普通なら振り落とされてて当然なのに」


 こちらには四人乗っているとはいえ車とバイク。時速なんてとっくに制限速度を越えてるから、あんな暴れ馬そのうち振り落とされるだろうと高をくくっていた。男は落ちない。パクも驚嘆して呟いた。遠目で見辛いけど、もしかすると念能力者かもしれない。


「今欠番ねえよな」

「ああ」


 フィンクスがニヤッと嬉しそうに笑い、関節をゴキリと鳴らした。


「残念だ」


 全く残念だなどと思っていないのは一目瞭然だった。私は前を向きバイクを見やった。






 自称正義の味方だとか言うそいつがバイクを崖から乗り捨てて爆発させたことには皆で驚き呆れたが、なかなか面白い男だったからかクロロとフィンクスがメールアドレスを交換していた。

 助け出した少女を近くの街まで連れていくというそいつとはその場で別れ、私たちは当初の目的である盗みを実行し早々にアジトへ帰った。


 ところであの男、どうやって街まで行ったのだろうか。唯一の足だろうバイクは炎上したし――歩いたのかもな。クスリと笑って、その疑問はすぐに忘れた。数ヶ月後、不可思議な仮面をした男が各地で慈善活動をしているという噂を聞く。

 ――何故、そんな特にもならないことをしているのか? と。また顔を合わせることがあれば聞いてみたい。何故だか楽しくなって笑えば、いつになく気が晴れた。









前半少し優歌ちゃん、残りずっとマチ視点。原作数年前ですね。優歌ちゃんがジンから独立して、正義の味方を始めたばかりの話。
05/13.2010


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