旅団のみなさんこんにちは



「で、一体何のつもりだったんだ」


 怪物バイクに乗りながら、さて次の任務までどうしようかと考えていた。そんな私を誘拐してくれたのはクロロだった。


「何のつもりって、ヒーローのつもりよ。他に何があるって言うの?」


 てめぇ、とウボォーギンが唸るのに手を振って答える。


「私はどう転んでもヒーローでしかいられないわけ、分る? ヒーローってのは誘拐されたうら若き乙女や、命の危険に晒された未来ある子供を助けたりするのが仕事なのよ。たとえしたくてもしたくなくてもね。だから乱入した」


 こいつらには分るまい、みるみるそげ落ちていった胸部を見る切なさを。定職にも就けず、減っていく財布の中身と相談する毎日を。流星街出身? ハンターになれば定職に就けるじゃない。私はハンターになっても定職に就けないんだからね。

 私は切々と訴えた。本当はヒーローなんて面倒で大変で金にもならない職業なんて嫌だったんだと。でも、私の念がそれを許さない。税金代わりだと誘拐された少女の家に金があるわけがない。虐殺されたクルタ族が、これから復興しなきゃいけないのに金を出せるわけがない。私がもらえるのはただ、感謝(言葉のみ)されることだけだ。


「だからクルタ族との戦いに割り込んだ、と」

「そうよ」


 クロロの声には苦い物が混じっていた。なんとなく場の雰囲気が変わったのを感じて見回せば、憐れみの視線が私に集中していた。


「そのヒーロー業ってのは、なんだ、止められねーのか?」


 ノブナガが代表して訊いてきたのに頭を横に振って答える。


「無理なのよ、これが私の念能力だから――こんなのなんか望んでなんかいなかったのに」


 本当に、こんなの望んでなんかなかったのに。制約という拘束は私の就職を邪魔し、美味しいご飯と温かいお風呂を妨げ、休暇という概念から最も遠い位置へと投げだしたのだ。


「温かいご飯が食べたい、たっぷりのお湯に浸かって世俗の垢を落としたい。会社でオフィスラブして結婚して!」


 マスクのせいで籠った声で叫ぶ。社内旅行とか社内食堂とか、叶わなかった夢が目の裏を通り過ぎる。春樹が私に変なものを飲ませさえしなければ叶っていただろう夢想。ああ、温かくて焚きたての白いご飯と出来たての味噌汁と焼き魚。ほうれん草の胡麻和え。数年前までは身近だったはずなのに、今では遠い夢でしかない。


「あさり汁、茶碗蒸し、寿司……もう何年食べてないんだろ、はぁ」


 そう呟いた私に反応したのは二人――マチとノブナガだった。


「え、あんたジャポン人?」

「ええ、そうよ?」

「まじか」


 ノブナガ、人を指差すんじゃありません。憐れむくらいなら金かご飯をくれ。





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執筆チャットにて執筆
2012/04/04

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