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死んだ覚えはないんだけど、気づいたら赤ん坊でした。これはいわゆる記憶を持ったままの転生というやつだよね。まさか私が実体験するとは思わなかったけど、これからは待ち受ける運命という荒波に揉まれ苦しみつつ友情を育むんだきっと。何かの漫画の主人公になった気分。ハ! そうするとなると、私体を鍛えなくっちゃ! みんなの足手まといになっちゃいけないよ、自分の身は自分で守れるくらいに強くならないとね!
「ゆ!」
私はベビーベットの中でぐっと手を握り締めた。さあ、頑張るぞ私!
父親はどうしたのか知らないけどいなくて、母親は私を産んで亡くなったのだとか。両親がいない私は変な人に世話をされていた。お面付けてて変なの。でもずっとその人と二人きりってわけじゃなくて、ときどきお爺ちゃんだとかいう皺だらけの老人が私を見に来ては相好を崩してる。
「木の葉は可愛いのぅ」
私のほっぺたを突きながらお爺ちゃんが言った。そしてお面の人を振り返って訊ねる。
「ナルトや、木の葉の世話はどうじゃ?」
ん? ナルトって変な名前。某忍者漫画の主人公じゃないんだからさ、人に付ける名前にしては可哀想だよ。
「世間一般の餓鬼に比べると凄く大人しいな。滅多に愚図らないし、泣くのも腹が減ったとかおしめが気持ち悪いとかそういった時だけだ」
さすがにさ、おしめを替えてもらうのは恥ずかしいよ? でも人間は誰でも通る道でしょ、私は二度目だってだけで。私が大きくなったら、このお兄さんが早くおしめのことは忘れてくれますように。南無南無。
「そうか……この子なりに両親がいないことを分かっているのかもしれぬなぁ」
あ、やっぱり父親もいないんだ。じゃあ誰かをお父さんって呼ばなくて良いんだね。私にとっての父親は転生する前のお父さんだけだし、母親もお母さんだけ。私を産んで死んじゃったなんて後味悪いけど、知らない人に対して申し訳なく思うほど私はできた人間じゃないから。
「これからも木の葉の世話を頼むぞ、ナルト」
「分かってるよジジイ」
「火影様と呼びなさい、全く」
ナルト、火影様……ううん? なんだか引っかかるなぁ。もしかしてここがNARUTOの世界なんてことあったりして。まさか、ね? もしそうならこの『木の葉』って名前と三代目の孫ってことから――私、木の葉丸成り代わり?
ジジイの孫だっていう赤ん坊は本当におとなしくて、オレがクナイや忍具の手入れで長時間放置してても全く泣かない。まあ腹が減ったりおしめ濡らしたりしたときはさすがに泣いてるけどな。
「おい、餓鬼。お前どうして――」
畳敷きの床に転がしていれば、オレをじっと見つめてきた。こんな面をつけた不審人物――いや、こいつはまだ赤ん坊だ、常識からすればオレが不審な格好をしていることを分かっていないだろう――を見て泣くこともせず、逃げることもせず、ただじっと見つめてくるばかり。確か赤ん坊は親の目を見て安心するのだと聞いたことがある。目元を隠してしまうと人として認識できないのだとか。
「んー」
餓鬼、いや、ジジイの孫が唸った。珍しい。
「んー、う、お」
歯の無い口を動かして何かを言おうとしている。
「ん、りゅ、てょ」
何かを伝えたがっている様子の餓鬼に近づいた。オレを見上げながら餓鬼は何度も繰り返す。
「ぬ、る、とぉ」
「……もしかして、ナルトって言いたいのか?」
「あい」
オレは餓鬼、いや、木の葉を抱き上げた。首が据わってないから腕を頭に回しながら持ち上げる。
「そう、だ。それがオレの名前だ。ナルトだ」
こんな小さな赤ん坊が言語を理解し切れているとは思えない。普通ならな。だがオレは理解できているのだと信じたかった――信じた。オレの名前を呼ぼうとしたのだと、信じたんだ。ジジイと、腹の中のあいつしかオレの名前を呼ばないから、ともすればオレはオレの名前を失くしてしまいそうで。
「オレはナルトだ」
オレの名前を呼んでくれ、木の葉。
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WAOシリアス! まさかここまでナルト視点が暗くなるとは思わなかった……。 04/15/2010
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