木の葉丸 | ナノ



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 アイツは狂ってる――実力至上主義の暗部内でも、噂は好まれる。初めこそ「そんなことがあるわけねぇ」と笑い飛ばしていたオレだが、実際に紫蓮が内心の知れない笑みで敵を殺す姿を見た後になっては、それを否定できなくなった。紫蓮はどこか歪んでやがる。


「おや、嫌われてしまいましたかね」


 紫蓮が一歩どこかへ足を向ければ、そちらにいた者は一歩下がり、別の方向へ向かえばそちらにいる者が後じさる。忍びにしては繊細そうな指を口元に当て、紫蓮はうっそりと微笑んだ。容姿は美少年ながらその雰囲気は不気味の一言に尽きる――そんな紫蓮をどうすべきか。どうしてこう、オレの周りの人間は面倒くせぇことばかり起こすんだ!?

 任務遂行の報告書を受付に渡したから後は帰るだけだ。控室兼受付である部屋を出て廊下を歩きながら、他者の目がないことを確かめてから口を開いた。


「紫蓮」

「はい、黒龍副総長」


 首をこちらに向け、体重を感じさせないステップで体を向ける。浮ついた足取りに見えるが、これは体重が軽いせいだな。だがこう言った動作のいちいちが紫蓮を不気味に見せる要素となっていることを考えると、ただでさえ悩みが多いっつーのに、頭が痛くなってくる。


「もう少し人と交流しようと思わねーのか?」


 コイツはわざと嫌われようとしているようにも見える。打ち解けようと思わねぇのか? 一人で任務をするならともかくとして、気配察知能力の高さが随一のコイツはスリーマンセルやフォーマンセルでの任務、つまり高レベル任務にこそ必要な人材だ。班内で互いに信頼し合わねーと出来るものも出来なくなっちまう。


「思いませんね。私はただの敵発見機でしかありませんから。仲間同士で背中を任せるなんてことは他の方にお任せします」

「今日の幻術がありゃ、背中を任せ合える奴が出来てもおかしくねぇだろ」

「人の集まりというものは常に排斥すべき他者を欲しがっています。ご存じでしょうが、暗部内も一筋縄ではありません。圧倒的チャクラ量と火力を誇る金孤総隊長、頭脳では他の追随を許さない黒龍副総長、総隊長と副総長直属の兵であり火遁のエキスパートである紅狼先輩。聞くに、総隊長は十年前に、副総長は七年前に、紅狼先輩は六年前に暗部へ入られたそうですね。

 総隊長は入隊三年目にしてその座に着いた実力者で、その力量は誰の目にも総隊長として相応しいものがあります。が、それ以上に嫉妬を買っていますね……隊長が妬み憎しめば、部下もそれに引きずられるものです。反発派と擁護派で暗部は現在真っ二つ。さて、そこに、新しく嫌悪できる対象ができればどうです?」


 誰もが嫌悪する相手を話題にすれば、今まで対立していた者たちも「ああ、あいつって気色ワリーよな」「分る分る」という会話ができる。今までのことを忘れて意気投合なんてこともあるだろーな。だが、どうして自分を犠牲にしてまでそんなことをする。オレ達の指導力不足、吸引力不足のせいだろ。


「何故、ですか?」


 紫蓮は首を傾げ、それから微笑んだ。


「僕の名前が紫蓮だからですよ」


 理論的とは全く言えねぇのに、何故かそれはスッと頭にしみ込んだ。





 紫色で蓮の花と言えば骸しかいないもんね――でもきっと、シカマルと夢主の認識にはグレートウォール級の齟齬がある。
10/07.2012

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