毎週月曜日発売である天下のおザンプ様、その代表作といえるマンガ『龍の玉』のパクリは当然ながら却下された。もう一度言うが、当然であった。悪乗りしすぎた事業部の暴走を上部も良く理解しており、契約破棄になっても当たり前だと頷いた。つまり、バテリーは数日中にフリーに戻るのである。

 エキセントリックと契約したラルフローレンは前年度同月の収入を半月で超えるという快挙を成し遂げ、バテリー、クリアカッターと契約した各社も収入増に嬉しい悲鳴を上げている。今のところどこと追加契約するか沈黙を守るエキセントリックは別として、複数の会社と契約する気のないらしい古参二人に他会社は歯噛みしていた――そんな中の新規契約対象を探していると言う連絡である。『MicRoはヒーローという歩く広告塔を上手く活用するどころか彼の能力を生かしきれず、契約まで失った』。連絡を受けた各社はそう嘲笑し、他社に遅れてなるものかと死に物狂いでプレゼンテーションの準備をした。

 HERO-TV側が用意したバテリーへの説明会はかの連絡から二日後、つまり本日の正午に迫っていた。顔面を血だらけにしヒイヒイと言っていた放火犯の姿はやはり衝撃的であったらしく、今のところ新たな事件が起きてはいない。しかし犯罪者予備軍たちがいつまでも行動を控えているわけではなし、速く決めてしまおうと番組も企業も駆け足である。


「どうせどこも同じだろ……。説明会なんて良いじゃねーか」


 バテリーはところどころ剃り残しのある顎を掻きながら面倒そうにため息を吐いた。番組の用意した会場に来ているのは十社だけだがどこも殺気だっており、相手の邪魔をすることはないが睨みあいが激しい。


「まあまあ、そう言わずちゃんと考えたまえ」

「今後の自分のことなのだからね」


 今後の自分が結ぶ契約の参考にしようと考えたエキセントリックと他社の示す契約内容に興味のあるクリアカッター、彼を我が子のように思っているレジェンドがバテリー心配と会場に足を運び、番組が刷った各社の契約と契約後のバテリーのキャラクター作り云々についてのパワーポイントのコピーを手にこれが面白いだとかどうとか感想を言い合っていた。クリアカッターとレジェンドが肩を叩くとバテリーはがくりと背中を丸める。

 四人は素の姿ではないとはいえだいぶラフな格好をしており、契約ゲットを意気込む企業側のテンションを上げていた。ここで自社と契約することにより得る利益を示せば、バテリーは逃してもエキセントリックが契約相手として考えてくれるかもしれないし、クリアカッターも重複契約してくれるかもしれない。「かもしれない」とはなんとも曖昧であるが、そこは仕方ない。四人の姿を目にするたびに発奮する彼らを見て三人は苦笑した。番組も契約相手に相応しい相手を絞ったのだろう、どこと契約してもバテリーに悪くはならないだろうと分る。


「バテリーさん、ですよねぇ?」


 あと十分で説明会が始まる、という時だった。最後の追い上げと熱い各社社員たちから一歩抜け出た女がいた。肩にかかるだろう長さの金髪はふんわりと巻いており、化粧は彼女を幼く見せる。話し方はどこか甘ったるい。


「ああ。そうだけど?」


 頷いたバテリーに女は黄色い歓声を上げた。


「やっぱりぃ! 私ぃ、ずっとバテリーさんに憧れてたんですよぉ!!」


 猫なで声と可愛い子ぶったような口調にエキセントリックは眉根を寄せる。こういうタイプは自分が可愛いと分ってしているため性質が悪い――だがこういう女に引っ掛かるなどよほどの馬鹿でもなければないだろう。そう思ってバテリーを見た彼はしかし、期待したそれとは全く異なる表情であったのを見て目を剥いた。


「ば、ばてりーせんぱい?」


 袖を引くエキセントリックにも気付かず、バテリーはにやけきった顔を晒して後頭部をバリバリと掻いた。


「でへへへ、そっかー、そーなのかー」

「はぁい! 憧れの人とこんなに近くで会えるなんてぇ、ホント役得ですよぉ」

「なんてことだ」

「……はあ」


 鼻の下の伸びたバテリーを見たクリアカッターは天を仰ぎ、レジェンドはため息を吐いた。バテリーは寂しい一人身、可愛い女の子から「ずっと憧れていました」と言われれば嬉しくなるのは分る。しかし、その緩みきった顔はどうなのか。千年の恋も冷める――醒めるのではなく冷める。


「あ、そろそろ説明会ですねぇっ! ではまたぁ、後でぇ」


 彼女は顎に丸めた両手を当て、「キャハ☆」と一言残して四人に背を向ける。エキセントリックはその様子に腕を擦り、クリアカッターは手を握ったり開いたりし、レジェンドは額を揉んだ。彼女のポーズを可愛いと思うどころか蹴りを入れたくなったのは一人だけではあるまい。何故彼女のような人間が潜り込んでいるのか是非とも会社に問いただしたいところである。


「でへ……」


 珍妙な笑い声に三人がバテリーを見れば、彼はでへでへぬふぬふと怪しげな笑い声を上げて手を組んでいた。


「うわっ、サブイボたちよった……」


 エキセントリックは袖まくりして鳥肌の立った腕を見た。拒絶反応が出たらしい。




Danach→


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