オレが生まれてから十一年の月日が過ぎた。え、いきなり飛んだなって? それはあれや、キングクリムゾン!


「では、行ってきます」

「父上、いって参ります」

「ああ。マルフォイ家の息子として恥を晒すなよ」

「もちろんです」

「はい」


 頷く。――今日はホグワーツの入学日だ。

 小さい頃に父上と母上(故人)が話しているのを聞いて知ったのだが、オレはどうやら例のあの人の命令によりアイリーンなる人と父上の間に生まれた子供らしい。純血の家が一人っ子じゃいかんだろうということで弟か妹をとなったのだが、母上の体が弱くて二人目は絶望的。なら他の純血の娘に生んでもらえと例のあの人の一声があり、落ちぶれていたプリンス家の娘であるアイリーンさんに生むよう脅したのだとか。男の子だったらマルフォイが引き取り、女の子ならアイリーンさんに育てられると決まっていたらしい。――これはつまり、女に生まれていたら異母兄と結婚させられるところだったということか。

 九歳上の兄貴は既に卒業生。世話になった教師に挨拶したいだとかでオレの見送りに着いてきた。今生は転生トリップだったせいか家族とかそう言ったものに甘い気もしないではないが、これはこれで幸せだから気にならない。


「兄上、待ってください。オレではこの荷物は持ち上げられません」


 兄貴・ルシウスの背中を追いかける。ホグワーツ特急に乗り込もうと頑張ったんだが、まだ小さいオレにはカートいっぱいの荷物を持ち上げることは不可能だった。さっさと先に行ってしまいそうな兄貴に声を開ければ兄貴は驚いたように振り返った。


「ああ、そういえばジュリアスはまだ持ち上げるには背も力も足りなかったな。ほら、どけ」

「有難うございます、兄上」


 前世からの五つの特典は今生でも生きていて、オレは簡単には死なないしなかなかスリリングで楽しい人生も送れている。最後に適当に言った「なんか凄い超能力」は今生では人外並の魔力と魔法の才能にされていて、七歳の時に杖を買ってもらったオレは守護霊呪文だって一度で出来てしまった。才能が恐ろしいとはこういうのを言うんだろうな。

 だが兄貴よりもオレが目立つことはあってはならない。もし目立ったりなんかしたら兄貴に殺される。これホント。ということでオレはまあまあできる子として兄貴に殺されないよう、親父――じゃなかった、父上に才能がばれないようコソコソと頑張ってきたわけだ。オレの努力って本当にいじましいよな。ただでさえ目の色で目立っとるっちゅーに、魔法でも目立ったらどないな目に遭わされるか……ブルッと来るわ。

 まあ、そういうわけで『まだ上手く魔法が使えない年齢相応の可愛い弟』を演じるオレは浮遊呪文とか呼び寄せ呪文を人前で使えない。兄貴に情けない声で頼んだら兄貴は仕方ないなと兄貴面(実際に兄貴なわけだが)で杖をふるい、カートを持ち上げた。キャーキャー兄貴格好良いー! 無言呪文なんて素敵ー!

 兄貴に手を引かれ、スリザリンの中でも特に兄貴が目をかけている人がいるというコンパートメントへ連れて行かれる。中には見知らぬ青年が一人で座っていて、兄貴に気付いた彼は慌ててドアを開いた。


「お久しぶりです、ルシウス先輩」

「ああ、何ヶ月ぶりだろうな」


 兄貴と仲が良いらしい青年を見上げる。オレは百四十センチかそこら、名も知らぬ青年は百八十近い。まだ伸びるだろうし百九十いくのではなかろうか。


「――黄色」


 青年はオレを見下ろしてぼそりと呟いた。よく見る反応にオレはもう慣れっこで頷く。


「はい。色素異常らしくて、黄色いんです」


 オレの瞳は色素異常のせいで黄色い。瞳孔はオレンジ色で光彩は黄色という薄すぎる色だから明るいところは苦手だ。昼間に空を見上げればリアルムスカになってしまう。だから屋外ではうっすらと色が付くサングラスを着用しなければならず、不便と言えば不便だ。その代わり夜目は利く。


「そうか。――僕はセブルス。セブルス・スネイプという。君の名前は?」

「ジュリアス・マルフォイです。よろしくお願いします、スネイプ先輩」


 右手を差し出して言えばスネイプ先輩は微笑んだ。本当の弟に向けるみたいな目で見られて少し居心地が悪いが、仲良きことは素晴らしき哉と昔の偉い人が言ったはずなので素直に手をシェイクした。


「ジュリアス。私はもうスラグホーン先生の元に行かねばならない。セブルスと二人でいろ。――セブルス、弟を頼む」

「はい、兄上」

「わかりました、ルシウス先輩」


 厳格な貴族社会では弟は兄の所有物のようなものだ。目立たず騒がず影のように控え、もしもの時のスペアとして兄を支え続ける。貴族としての誇り高いマルフォイ家ではそれが顕著だ。まあ、長男じゃなくて良かったと心の底から思ってるから良いんだがね。

 兄貴が出てったらすぐスネイプ先輩は席に座り、オレにも座るよう促した。正面に座れば微笑むスネイプ先輩にだいぶ昔の記憶を探す――こんなに愛想の良い人だと書かれていたっけか。陰険で粘着質な人だと描かれていたように記憶しているのだが。


「ジュリアス君はどこの寮に入りたいと思っているんだ?」

「もちろんスリザリンです。グリフィンドールになんか入ったら父上や兄上に削除されますし、ハッフルパフでは見捨てられますし、レイブンクローではギリギリ許してもらえる範囲内かもしれませんが怒られるでしょう。ですから、スリザリン以外に入るなんてことは考えられません」


 すでに優秀な長男がいるため、いてもいなくても困らない次男であり、それも本妻の息子ではないと来た。グリフィンドールになんか入ってみろ……絶対に殺される。毒を送られて『これで死ね』と言われるに違いない。そん時は逃げるけどな!

 オレの真剣すぎる顔にスネイプ先輩も生唾を飲み込んだ。


「やはり厳しいのだな、マルフォイ家は」

「ええ、ブラック本家とは違うのです。まさか長男がグリフィンドールに入るとは誰も思いもしなかったでしょうし、混乱しているうちにダンブルドア側に取り込まれてしまって手を出せなくなったのでしょう。でもオレは次男ですから」


 てか、ブラック家のシリウス氏はもっと考えるべきだと思う。ブラック家が本気だったら、ホグワーツなんて退学させられて闇系の学校に突っ込まれる。腐っても純血なんだからそんくらい平気でする。それを泳がしてもらえてるんだから、シリウス氏は両親に感謝すべきだと思います。


「なかなか君はきついな。しかしそれをシリウス・ブラックの前で言ってはいけない……分かっているな?」

「はい、もちろんです。オレは早死にしたくありませんから」


 スネイプ先輩、なかなか素敵で格好良いではないか。こんな兄ちゃんが欲しかった。兄貴は悪い人じゃないんだが、貴族という身分の関係上オレに厳しい。頭を撫でてくる先輩の手に頭を押し付ける。(精神が)大人だって人に甘えたい時があるのだ。

 いつの間にかオレはスネイプ先輩の膝の上に座り、カエルチョコレートを買ってもらって食べていた。なんかおかしくないか?




Danach→


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